中国のネット上で話題となっている1文字「藍」とは?

2012年頃から目に見えて深刻化してきた中国の大気汚染。ネット上では、「青い」という意味の「藍」が昨年来よく見られています。本連載では、ネット上の流行語を通して中国社会の今を検証していきます。

祈念パレードより「閲兵藍」が話題になった北京

本年9月3日、北京で繰り広げられた抗日戦争反ファシズム勝利70周年祈念パレードは世界の注目を集めたが、パレードそのものより、期間中の青い空がより話題になったのではないか。

 

パレードに備え、北京市とその周辺の河北、天津はもとより、遠く離れた山西、内蒙古、山東、河南に至るまでの6省市区を対象に、2週間にわたる工場操業停止や交通規制強化の臨時措置が導入され、北京については大気汚染物質40%削減、その他地域については30%という目標が設定された。

 

この結果、青い空が戻り、「閲兵藍」、パレードブルーと呼ばれた。ネット上ではさっそく、「確かに月餅(閲兵と発音が類似)は国家の最も重要なもので、何事もこれを阻止することはできない」と茶化す声が聞かれた。

 

予想通り、パレードが終わった次の日の朝には青い空は消え失せ、いつもの灰色の空、「常態灰」に戻り、「中国政府が強権で作り出した(反)法西斯(ファシズム)藍だった」、さらには、「スモッグがないと不安で落ち着かない」「車の窓を開け、深呼吸をしてスモッグを感じてこそ北京だ」といった皮肉がネット上で聞こえた。

 

ここでもちろん「常態」は、習近平政権が就任以来主張している「経済の新常態への移行」になぞらえたものだ。実は、「青い」という意味の「藍」は、ネット上で昨年を象徴する1文字だった。

 

昨年のAPEC期間中の青い空、「APEC藍」は海外でも有名になった。2022年の冬季オリンピック(冬奥)の北京開催が決まり、「APEC藍」から「冬奥藍」へ、また全人代と政治協商会議のいわゆる両会が開催される時期(通常、3月初)にやはり毎年空が青くなる「両会藍」を「365藍」にしていかなければという声が、ネット上で聞かれる中での「閲兵藍」だったのである。

 

【北京PM2.5指数】

8月3日 153(4級、中度汚染)
9月3日 46(1級、優良)
9月4日 158(4級、中度汚染)
(出所)在北京米国大使館監測、9月4日付中国地元紙

皮肉交じりに「十面霾伏」と表現されるPM2.5の問題

PM2.5に代表される大気汚染は、2012年頃から目に見えて深刻化したが、一般の人々は、この状況を「十面霾伏」と呼んできた。「霾」はスモッグ、PM2.5を指すが、三国志にある軍事戦略で全く同じ発音の「十面埋伏の計」、四方を囲んで逃げ場をなくすという表現を利用したもので、どこに行ってもスモッグから逃れられない状況に対する不満を、皮肉交じりにこう表現してきた。

 

当時、霧の都ロンドンならぬ「霾都(スモッグの都)北京」、「人肉吸塵器」、PM2.5は北京が外からの攻撃を阻止するために仕掛けた「超大規模武器」といったブラックユーモアも飛び交った。

 

パレード直前の8月29日、大気汚染防治法(1988年施行)の第3次修正案が全人代常務委で可決、来年1月1日から施行される。27年ぶりの大幅改正である。地元紙によると、昨年末から修正案がパブリックコメントにかけられていたが、環境保護法などと比べ「専門性」「技術性」が高く、検討、立法に時間がかかり、異例の3次修正となっていたものだ。

 

燃料油の質基準の引き上げ、環境保護部に単独で工場検査できる権限を付与し、また現場検査の他、標本検査や通行車両の遠隔検査を始めとする多様な検査機能を強化することなどが盛り込まれている。ただし、中国では、方針・規則はできても、それが実際にどう実行されるかが問題だ。

 

大気汚染が毎年もたらしている経済的損失について、清華大学とアジア開発銀行(ADB)の共同研究チームが2013年に発表した環境分析報告書によると、健康被害のコストに基づく推計ではGDPの1.2%、人々が大気汚染改善のために支払ってもよいと考える費用に基づくと3.8%に達すると推計している。

 

中国環境保護局も、大気汚染がもたらしている経済的損失は、2010年時点、およそGDPの3.5%程度であろうとしており、こうしたコストを勘案すると、中国のこれまでの高成長は見かけほどではない、あるいは質を伴っていないということになる。

 

大気汚染以外についても問題は深刻だ。国際通貨基金(IMF)が2013年に発表した報告によると、モニタリング調査された河川、湖、地下水の各々、3分の1、85%、57%が汚染されており、3億人近い農村人口が飲料水にアクセスできず、いくつかの大型河川は汚染によって飲料水供給に適さなくなっている。

 

またエネルギー消費の70%近くは石炭で、これがCO2の主要排出源となっている。砂漠化も激しく、主として過放牧によって毎年約5,800平方マイルが砂漠化し、土地の31%、草地の85%で土壌汚染が進んでいる。

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) 独立取締役

1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。 2015年、NWB(日本ウェルス)の独立取締役に就任。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

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