前回は、海外事業進出の成功に不可欠な「海外専任担当者」について取り上げました。今回は、事例から新興国への進出を成功させるポイントを見ていきましょう。

高価な機械ではなく、手頃な「サービス」を販売

私は、日本企業にはもっと自社の製品、サービスに自信を持っていただきたいと思っています。なにしろ日本企業は、「世界一、品質にうるさい」といわれている日本の消費者を相手にしてきたのです。

 

ですから、日本では当たり前の製品やサービスや技術であっても、海外では高品質かつユニークと捉えられ、強みになることが多くあります。

 

たとえば、日本ではどこにでも普通に売っている赤ちゃん用の紙おむつですが、これが中国で大人気になりました。2015年には、中国で転売すると「日本の小売価格の2倍の値段で売れる」と話題になったほどです。中国人が日本の安売りのドラッグストアで「爆買い」と呼ばれる買い占めを行い、紙おむつの奪い合いから傷害事件となってニュースになったことまであります。

 

また、ある中小企業の事例も示唆的です。

 

そのメーカーは、工場などで使用される、鉄パイプなどを切る切削機械を製造していました。技術力はそれなりにあるけれども、人手も資金も不足しているので、国内の企業だけを相手にビジネスをしていました。

 

ところが、取引先である自動車メーカーや精密機械メーカーが工場を海外移転させることが多くなり、そのメーカー自身も取引先に請われて中国に工場移転することになりました。

 

当初は取引も順調だったのですが、徐々に景気が低迷し、取引先が業績不振になりました。日本からの取引先企業だけに頼っていたそのメーカーも、連鎖的に業績不振に陥ってしまいます。

 

そこで、一念発起して中国の現地メーカーに切削機械の売り込みに行ったものの、日本製の機械は高価なため、どこも購入してはくれませんでした。

 

デモンストレーションをして見せれば、どの現地メーカーもその切れ味に驚いて、ぜひ欲しいというのですが、価格を知ると尻込みしてしまいます。切削機械にそこまでの投資をする余裕はないのです。

 

だからといって、価格を下げるのにも限界があります。儲けが出ないような金額で売っても仕方ありません。ついに、現地から撤退するという話になったときに、一人の社員が良いアイデアを思いつきました。顧客が日本製の切れ味だけを求めているのであれば、それだけを提供することができるのではないかと考えたのです。

 

つまり、すでに使用している切削機械の刃を研磨するサービスです。

 

実際に、サービスを始めたところ、現地で大評判になりました。切削機械そのものは高くて売れなかったけれども、その機械の技術の一部である「切れ味(刃の研磨)」を手頃な価格で提供したことで、現地の工場に受け入れられたのです。

現地のニーズに合わせ「必要最低限」のものを売る

この事例から、海外進出の一つのヒントを見出すことができます。

 

日本の製品やサービスは、アジアなどの新興国の物価から見れば高価に映るかもしれません。しかし、その価格に見合うだけの高い品質があり、それを必要としている購買層は、どのような国にも存在しています。

 

仮に価格が高すぎたとしても、その品質は世界中のどこでも通用するものです。逆に言えば、ニーズは確実にあり、課題は価格の折り合いだけというケースが非常に多いのです。

 

この事例では、切削機械という自分たちの製品にこだわることなく、「切れ味」というニーズを捉えて、それにフォーカスすることで、海外市場で成功することができました。

 

当時の中国では、物を売った後のアフターフォローが日本ほど手厚くないために、切れ味が鈍ったからといってメーカーが刃を研磨してくれるサービスはなく、交換してくれるわけでもありませんでした。

 

かといって高価な機械をそう頻繁に買い替えることもできず、顧客は、切れないまま、我慢して使い続けるしかなかったのです。

 

品質もサービスの質も高い日本企業が、海外の市場で真に求められているものとは何かを見極めれば、すでにできあがった商品やサービス以外に提供できるものが、いくらでもあるはずです。

 

「日本の製品は高機能だけれども、そのぶん高価格だ」というのは、現地でもよく聞かれる「クレーム」です。先進国や成熟国家に売るのであればそれでもいいのですが、新興国では、必要最低限の機能をお手頃価格で、という商品が好まれます。

 

たとえば、インドのタタ自動車の「ナノ」は、20万円台で買える安価な車ですが、初代ナノのフロントウィンドウには、ワイパーが一つしかついていませんでした。運転席の前だけが見えればよくて、助手席まできれいにする必要はないというのです。

 

ちなみに、サイドミラーも運転席側にしかついていません。助手席側のサイドミラーは利用頻度が少ないので不要という考えなのでしょう。私たち日本人は助手席側のサイドミラーもワイパーも当たり前にあるものだと考えています。しかし、必要最低限でいいと言われれば不要なのかもしれません。

 

開発する側にはいろいろな思いがあるかもしれませんが、大切なのは現地のニーズを理解して、それに合った製品を提供することなのです。

国内頭打ち商品で利益を生み出す 海外進出戦略

国内頭打ち商品で利益を生み出す 海外進出戦略

田中 義徳

幻冬舎メディアコンサルティング

国内では売上・利益ともに頭打ちで生き残りが厳しく、海外進出を試みても撤退を余儀なくされる――中小企業はどこに活路を見出せばいいのでしょうか。 海外のマーケットでは、日本国内と同様のマーケティング、営業手法で成果…

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