「ポジティブなM&A」による事業承継が急増している理由

近年、急増している「積極的かつポジティブなM&Aによる事業承継」。本連載では、この事業承継M&Aにおける「ベストタイミング」について、業界再編時代という最新事情を踏まえて詳しく見ていきます。

中小・中堅企業の3分の2で「後継者がいない」現実

業界再編は、あらゆる業界で起こりうることです。しかし、ただ自然現象的に企業の統合が行われていくわけではありません。企業同士が統合・合併するにはM&Aが必要となります。

 

M&Aとは「Mergers&Acquisitions」の略で、企業のMergers(合併)とAcquisitions(買収)を意味します。2つ以上の企業が合併して1つになったり、ある会社が他社を買収する企業戦略の手法のひとつです。

 

筆者はM&Aコンサルタントとして、これまで多くの中小・中堅企業の事業承継をサポートしてきました。たとえば、創業してから大切に育ててきた我が子同然の会社を、病気が理由で手放さざるをえなくなったオーナー経営者。また、仕事ばかりで家族を顧みてこなかったが会社売却後の第2の人生は“妻孝行”に捧げたいとおっしゃるオーナー経営者など、さまざまな経営者と向き合い、寄り添ってきました。M&Aコンサルタントのひとつの役目は、経営者人生の最後の花道を飾る仕事、といっても過言ではありません。

 

大半のオーナー経営者は、長い期間不眠不休で人生を賭けて経営に携わっています。バブル期や右肩上がりの時代、資金繰りに苦しんだ時代や社員が離反したどん底の時期など、さまざまな喜怒哀楽、艱難辛苦を乗り越えて、会社のために一生を捧げ、企業経営を続けているのがオーナー経営者でしょう。

 

そして、経営者の最大で最後の難事業といえば、やはり「事業承継」です。会社をいつ、誰に、どのような形で引き継ぐかは、どの経営者にとっても頭の痛い問題です。会社をどのような形で次世代に引き継ぐのか。それは、経営者にとって至上命題です。

 

せっかく苦労して育ててきた会社だから、なかなか手放せず、健康なうちは自分の手で経営を続けたいと思う経営者や、責任は十分果たしたことだし、引退して第2の人生を楽しみたいと考える経営者など、それぞれ様々な想いを持っています。しかし、全国の中小・中堅企業のオーナー経営者は、事業承継をするうえで大きな問題を抱えています。それは、後継者不在問題です。

 

2014年の帝国データバンクの調査によると、中小・中堅企業の3分の2にあたる65.4%の企業に後継者がいないという結果が出ています。これは中小・中堅企業の経営者だけの問題ではありません。日本経済にとっても、深刻な問題ではないでしょうか。

 

これまでの筆者の経験から言うと、後継者不在問題は主に次の4つの原因があります。

 

1.後継させる子供がいない。
2.後継者となる子供はいるが、すでに自分の仕事を持っているなどで親の会社を継ぐ意思がない。
3.子供に企業家精神がなく、力量不足のために会社を継がせられない。
4.経営者の器を持った子供はいるが、業界自体が古く斜陽産業のため会社を「継がせる不幸」になってしまう。

20年以上前までは、「息子に継がせる」のが一般的な事業承継法でした。しかし、息子がすでにどこかの企業に勤めていて会社を継ぐことが難しかったり、そもそも継がせられる子供がいないというケースが増えてきています。

 

日本が右肩上がりの高度成長期の時代は、経営者にとっては追い風でしたが、今後日本全体の人口減少は免れず、大きな成長が望めない時代を迎えます。このような厳しい時代に、息子が経営者として会社を上手く存続させていけるのかといった不安も伴います。

 

そこで、息子に事業を承継するのではなく、その代わりに大手企業へ会社を売却するM&Aが急増しているのです。メリットは、会社が存続すること。むしろ成長が見込まれること。社名はそのまま引き継がれること。社員たちの雇用が守られることです。成長・発展している優秀な第三者に、自分がこれまで行ってきたすべてを譲渡できるので、非常に理にかなった継承法といえます。

 

この事業承継M&Aを成功させるために重要なことは、なによりタイミングです。「後継者不在」や「業績のジリ貧」といった問題を抱えた経営者が切羽詰まった状態で会社を売却しようとしても、譲渡価格は本人が思うよりも低く見積もられることになります。

 

また、高齢になって慌てて事業を譲渡する際のM&Aは、戦略に乏しく、大抵の場合、残念ながら売り時のタイミングをすでに過ぎてしまっています。数年前までは業績は好調だったのに、いざ引退しようと思った時には会社の成長性は失われ、M&Aの対象にもならないという事例はよくある失敗例です。

優良企業の経営者はなぜ50代でM&Aを決意するのか?

経営者の皆さんは、目の前の課題を解決することで頭がいっぱいで、事業承継の問題を後回しにしてしまう方がほとんどです。しかし、60歳、70歳になってからでは遅すぎます。売却後の第2の人生も、自分のイメージどおりに過ごせなくなってしまいます。

 

事業承継M&Aは、なによりもタイミングが重要です。最近では50代の若いうちにM&Aを積極的な経営戦略として活用している経営者が増えてきています。M&Aに対する以前のようなマイナスイメージは、今や過去のものです。

 

優良企業の50代の経営者は、創業時からすでに売却を念頭に入れた経営を行い、業績がもっとも好調な時期に会社の売却の準備を行い、業界の動向を見ながら絶好のタイミングを逃さず高値で会社を売却して成功を収めています。この「タイミングをつかむ」という意味で業界再編の状況を把握しておくことや、経営者としての感性を磨くことは非常に重要です。

 

経営者のひとつの目標は、IPO(新規公開株)だといいます。IPOは「ゴールではなくスタート」と表現されるように、「信用力」や「資金」が手に入り「事業承継」については連帯保証の必要がなくなります。しかし、将来の経営の道筋をつけることができるものの、IPOと同時にすべての問題が解決するわけではありません。また、オーナーは株式を市場ですぐにすべて現金化することも困難です。

 

一方、M&Aによって大手企業のグループ入りをする場合は、「信用力強化」や「資金調達」に加え、「株式の現金化」もでき、M&Aと同時に自身は経営から手を引いて、譲受先の企業から経営者を派遣してもらうこともできるなど、一気に多くの問題を解決することができます。そういったことからM&Aを「プチ上場」と表現することも多いのです。IPOが自力成長だけであるのに対して、M&Aによる大手企業のグループ入りは譲受企業との事業上の相乗効果(シナジー)もあり、IPOよりもM&Aのほうが、株価が高くなる傾向にあります。

 

数年前は、「IPOすることが目標だった」という経営者の話を聞くことが多くありました。しかしここ数年間、「創業時から事業承継のことを考えており、M&Aで会社を売却するつもりでいました」といったオーナー経営者が確実に増えています。つまり、積極的かつ前向きにM&Aを考えており、事業上のシナジーを見込んで極めて戦略的に売主が主体でM&Aを実行しているのです。

 

M&A業界は、以前は買い手が「仕掛ける」ことが多かったのですが、今や「売主から仕掛けるM&A」へと移り変わってきています。この積極的かつポジティブなM&Aによる事業の承継も最近のM&Aの特徴です。

本連載は、2015年9月20日刊行の書籍『「業界再編時代」のM&A戦略』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載業界再編時代の事業承継M&Aの「ベストタイミング」とは?

株式会社日本M&Aセンター 業界再編支援室長

大分県別府市生まれ。京都大学経済学部在学中にベンチャー企業の経営に参画。卒業後、2008年日本M&Aセンター入社。業界再編M&Aの第一人者。
過去70件を超えるM&Aを成約に導き、中小・中堅企業M&Aの№1コンサルタントとして業界を牽引している。代表的な成約案件であるトータル・メディカルサービスとメディカルシステムネットワークのTOBは日本の株式市場で過去最高のプレミアムがついた(グループ内再編を除く)。
テレビ朝日「報道ステーション」、テレビ東京系列「ワールドビジネスサテライト」・「ガイアの夜明け」、日本経済新聞、朝日新聞、東洋経済、日経MJなどのマスメディアで取り上げられている。

著者紹介

「業界再編時代」のM&A戦略

「業界再編時代」のM&A戦略

渡部 恒郎

幻冬舎メディアコンサルティング

経営者にとって事業承継は「最後の大仕事」ですが、大半の中小・中堅企業の経営者がその対策を後回しにしているのが現状です。実際、中小・中堅企業のオーナー経営者の3人に2人が後継者不在であるといわれており、多くの経営者…

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