前回は、介護施設が実践した「魅力ある通所介護」のための取り組みを取り上げました。今回は、利用者に「特別感」を味わってもらうために、介護施設が行った具体的な取り組みについて見ていきます。

利用者に役割を与え、通所介護への目的意識を持たせる

前回の続きです。

 

●取り組み4/利用者が退屈する時間をつくらない

 

介護職員に対して利用者の数が多いので、常に職員が利用者一人ひとりについていることは不可能です。それでも、利用者が手持ち無沙汰にならないように、アクティビティの材料や道具を豊富に用意しておいて、いつでも自由に使えるようにしました。

 

たとえば脳トレ、雑誌、塗り絵、新聞、編み物、歌謡曲のDVD、ビニール袋や洗濯物たたみ、生け花、パズル、知恵の輪、ルービックキューブ、折り紙などです。

 

すべてのアクティビティが、介護職員が付き添わなければできないわけではありません。ひとりでも簡単にできるものなら、利用者の気が向いたときに気軽に好きなものを手にとって楽しんでもらえるため、「退屈な時間」をつくらずにすみます。

 

●取り組み5/利用者がまた来たくなるために、役割をつくる

 

「食事の配膳や下準備」「お風呂の準備や掃除」「花壇の手入れ」「おやつの準備」「寝具の整理」などは介護職員の仕事です。しかし「自分でやってみたい」というような積極的な利用者にはどんどん手伝ってもらいます。

 

一方、本人に通所介護に通う目的がなく「なぜ私はここにいるのだろう?」と感じているような利用者にも手伝ってもらいます。「私がいなければ風呂を洗う人がいない」といったように役割を持ってもらうことで、通所介護に通う目的意識を持ってもらうことができます。利用者の様子を見守り、事故が起きないように注意しながら個別の要望に応えるようにして、「また来たくなる通所介護」を目指しています。

「流れ作業」にならないよう、決められた介護を丁寧に

●取り組み6/利用者に関する小さな情報をたくさん知る

 

職員全員に、利用者について知っていることを調査し、結果をまとめて共有しました。

 

たとえば「A様は赤色が好きなので、入浴時には赤いタオル」「B様は入浴後にブラックコーヒー」「C様は塗り絵を褒めるとすごく喜ぶ」「D様はお食事のとき、好きなものを最後まで残している」「E様はお風呂に入ってきたとき“今日のお風呂は男前の人から順に入ってこられましたね”というと喜ぶ」など、小さな情報が100~150個集まりました。これをケース検討会などの場を使って職員で共有して、利用者と接する際に実践します。利用者は「特別感」を味わうことができ、そうした共有を繰り返すことで介護職員もより利用者を「知ろう」とするようになりました。

 

さらに、この情報をケアマネジャーにも共有し、家族にも伝えてもらうようにしました。家族にとっても、利用者が施設でどう過ごしているかが分かり、安心・満足につながりました。

 

●取り組み7/大勢の利用者でも、決められた介護は必ず行う

 

大規模な事業所だからといって、その条件に甘んじてサービスの内容で、妥協してはいけません。利用者が20人でも40人でも、介護時間は同じ、サービスも同じ、を徹底します。大規模ゆえに「流れ(介護)作業」になってしまわないよう、決められた介護は必ず丁寧に行います。

 

こうした取り組みを続け、大規模施設にもかかわらず利用者との関係が深まり、雰囲気のよい施設づくりができるようになりました。

 

ある日、取り組みの成果を感じる出来事がありました。利用者のほとんどが入浴目的の利用だった日に風呂が故障して入浴できなくなりましたが、利用予定の45人全員に事情説明の電話をしたところ、順延する人はひとりもおらず、全員が予定どおり通所しました。これも、利用者が施設に通うことに楽しみを見出している証拠です。大規模施設でも、小さな取り組みを大切に、確実に積み重ねることで、利用者の満足度は高くなるのです。

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