前回は2つ目のM&A事例として、売却まで十分な準備期間を設け、企業価値を高めていったケースを紹介しました。今回は、地方の会社が団結して持ち株会社を設立し、大手に対抗したケースを見ていきます。

各地域に散らばる同業5社が集まって大手に対抗

三つ目の事例として、地方ならではのM&Aをご紹介しましょう。

 

スキームとしては先に紹介した二つの事例よりやや複雑で、地域がまたがる複数の同業の会社が集まって持ち株会社を設立し、元の企業はその持ち株会社の傘下に入って、これまで通りの事業エリアで社名や店名といった商号も維持したまま活動を続けていくというものです。

 

下記の図表にまとめましたが、2010年に化粧品や日用雑貨を扱う卸業者が5社集まり、αホールディングス(仮称)という持ち株会社を設立。当社がそのコンサルティングを行いました。

 

[図表]5社の特徴とM&A後の構成

 

 

発起人として中心になったのが、北陸地方の二代目オーナー社長でした。業界団体の集まりなどであらかじめ面識があった同業の会社オーナーたちを束ね、M&Aを進めました。その際、発起人のオーナー社長は、リタイアしていた先代から、「屋号を守る」ことを諭されたといいます。

 

5社が集まるM&Aでは、自社をはじめどこかの社の商号・屋号は消えてしまうかもしれません。仮にM&A成約後の3年間は商号を守るなどと取り決めても、その後はどうなるかわかりません。そんなこともあって、発起人と当社で、持ち株会社というスタイルを考えたのです。

 

図表にある通り、αホールディングスの傘下には、このスキームに参加する5社がぶら下がり、A~Eの各社はそれぞれの社名や屋号のまま活動を続けることとしました。なお、αホールディングスとA~Eの各社の関係ですが、A~Eの各社は自社株すべてとαホールディングスの株式を株式交換します。その際、売上や事業規模に応じて、例えばA社はαホールディングス株の25%を所有、B社は15%を所有などと調整を行ったわけです。

 

そして、αホールディングスの代表には発起人の北陸地方のオーナー社長が就任。一般にこのようなスキームでは、売上がもっとも大きい会社や社長歴がもっとも長い人などが持ち株会社の社長に就任することが多いといえます。

全国20位程度の会社が集まることで「全国3位」に

株式交換によるM&A終了後、αホールディングスは仕入れと経理を中心に行い、営業や顧客への販売・配送といった日々の活動は傘下のA~E社が独自に行います。このケースでは、A~E社のオーナー社長はいずれも二代目で、社歴は各社とも50年以上とそれぞれの地域に根付いて営業していました。A~E社は売上規模なども似かよっていて、いずれも単体では全国で20位くらいの中堅の会社でした。

 

ところが、20位程度の会社が5社集まったことで、思いもせぬ大きな規模の持ち株会社が誕生しました。αホールディングスは、業界内で全国3位に匹敵する売上規模となったのです。

 

その結果、仕入れにおいても、各社が単独で事業を行っていたときと比べて格段に有利な状況を作り出すことが可能になりました。例えば、1本200円で卸していたシャンプーの仕入れ値が従来は150円だった場合、145円、140円といったより有利な交渉を持つこともできるようになりました。

 

メーカーとしても、地方の20位程度の会社単独には強気に出られても、全国3位となった会社の言い分を無視できなくなったというわけです。また仕入れなどにまつわる経理作業もαホールディングスで一括して行うため、傘下のA~E社は重複がなくなりムダが省けるというメリットも生じました。

 

このケース例は次回に続きます。

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    本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『会社を息子に継がせるな』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    畠 嘉伸

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