前回は、入居者の生活習慣に合わせたケアを提供する介護施設の事例を取り上げました。今回は、「利用者に寄り添ったケア」を提供する介護施設の工夫について見ていきます。

利用者の生活パターンなどを記載した「24時間シート」

前回の続きです。

 

もうひとつ、大切にしたいのは「その人らしいペース」や「その人らしさ」です。たとえば、食事の並べ方やみそ汁の温度も、マニュアルどおりにするのではなく、利用者の好みに合わせます。

 

カフェコーナーでのお茶の好みも覚えておいて、利用者がきたら「いつものですね!」と声をかければ、「自分の好みを分かってもらえている」と気分よく感じるはずです。

 

そうしたちょっとした心配りをするには、職員全員が利用者の情報を共有することが必要です。私の法人の施設では、利用者の生活パターンや好みを共有するために、利用者それぞれの24時間シートを作成しています。

 

本来、24時間シートとは、認知症の利用者の状態を把握し共有するためのものですが、認知症の利用者だけでなくすべての利用者について作成し、24時間の行動だけでなく、「着替えは自分でしたい」「食事はゆっくりとりたい」など、利用者がどんなことを望んでいるかを細かく記入して職員で共有します。

生活リズムを把握することで柔軟な対応が可能に

先ほどのAさんは寝るのも大好きで、午前9~10時に遅めの朝食を食べた後、午前中に昼寝をするのが日課です。ときには中庭で日光浴をしながら昼寝をすることもあります。

 

Aさんのように、ゆっくり起きて朝食を遅めにしたり、昼寝をしたり・・・といった生活リズムは、少ない介護職員で多くの人を介護する施設ではなかなか実現が難しいと思われがちです。しかし、工夫をすれば介護職員に大きな負担をかけることなく調整することは可能です。

 

たとえば朝食は、配膳後2時間で廃棄するルールになっています。そのため利用者には決まった時間に食事をとってもらうことが一般的です。しかし、発想を転換して「2時間は朝食をとっておける」と考えれば朝食の時間には余裕があることになります。8時にほかの利用者の食事と同じタイミングで朝食を用意しておき、Aさんには9時前から朝食をとってもらいます。そうすれば遅めの朝食と廃棄ルールは両立させることができます。

 

また施設のスケジュールとは違うタイミングの昼寝も、いつも何時頃昼寝をしているのか、そしてだいたい何時間寝るのかということを把握しておき、ときどき様子をみて、起きたタイミングで対応するようにすればよいのです。

 

利用者の希望と、毎日の生活リズムを掴んでいれば、施設介護でも柔軟に対応することができるはずです。

 

「日々是好日(ひびこれこうじつ)」とは「どんなことがあってもその日その日がかけがえのない1日である」ということ。Aさんの好きな言葉です。

 

施設で大切な毎日を過ごしてもらうためには、私たちが一方的に利用者の好みや生活を想像して、利用者に押しつけてもうまくいきません。まずは利用者に寄り添って、50人50色、一人ひとりの笑顔が生まれる施設を目指すことが大切です。

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