前回に引き続き、米国の「石油・ガス生産量」は今後どうなるのかを探ります。※本連載は、東京大学公共政策大学院教授の有馬純氏の著書、『トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、トランプ政権の下で「米国のエネルギーセクター」はどうなるのか、その行方を探ります。

「ロシア制裁」の行方に影響されるエネルギー政策

前回の続きである。トランプ大統領演説が企図するように、米国のエネルギー輸出が拡大し、「エネルギー支配」が強化されるか否かは、トランプ政権の外交政策にも影響を受けるだろう。例えば、ロシア制裁の行方である。

 

トランプ大統領は、ロシア制裁の緩和・解除に前向きであるといわれるが、皮肉なことにロシア制裁の解除は、ロシアの石油・天然ガス開発を可能にし、原油価格については下げ圧力に働くため、トランプ大統領の目指す国内石油・ガス生産にとっては逆風となる。他方、2017年6月14日に、上院は97対2でロシアのオフショア、深海の石油開発やシェールオイル開発に対する企業投資に歯止めをかけることを目的とした法案を可決した。

 

これが実現すれば、ロシアの石油、ガスセクターには打撃となり、米国のシェールオイル、ガスに対する競争圧力を減殺することになる。

 

下院でも同様の法案が成立すれば、トランプ大統領は拒否権を発動したいところだが、米国大統領選におけるロシアの関与が問題になっているなかで、対応は容易ではない。

 

また、上院法案のターゲットのひとつは、ロシアからバルト海経由で西欧にガスを送るノルド・ストリームプロジェクトだが、同プロジェクトを支持するドイツなどは制裁法案に反発している。

 

イラン制裁の動向も不透明要素だ。トランプ大統領は、選挙期間中にイラン核合意の見直しを示唆しており、ティラーソン国務長官は議会において、イランは合意を順守しているものの、核合意の見直しを行う方針を示している。仮にイラン制裁が再び課されることになれば、石油需給がタイトになる。ただし、欧州やロシアがそれに同調するかは疑問だ。

保護貿易主義の高まりによる世界経済収縮も懸念事項

トランプ政権の貿易政策の影響も無視できない。トランプ大統領の保護主義的な政策が主要貿易パートナーとの間で貿易戦争につながった場合、米国からのエネルギー輸出にも影響が及ぶだろう。

 

保護貿易主義の高まりにより世界経済が収縮すれば、世界のエネルギー需要も鈍化し、ひいては米国からのエネルギー輸出にも影響を与えることとなる。

 

米国が離脱を表明したパリ協定の下で、諸外国の低炭素化に向けた取り組みが、どの程度進むかも化石燃料需要に影響を与える。石炭から天然ガスへのシフトが進めば、米国産LNGの商機が拡大するが、米国からの石炭輸出にはマイナスの影響が生じよう。

 

このようにトランプ政権の講じている施策が、どの程度、米国の石油・天然ガス生産を拡大し、米国の「エネルギー支配」を強化するかどうかについては、多くの不確定要素に左右され、米国内の規制緩和だけでは、それほど大きな効果はないと思われる。

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