遺産は国内不動産…被相続人がインドネシア国籍の際の準拠法

今回は、被相続人が「インドネシア」国籍の場合の準拠法について説明します。※本連載では、東京弁護士会法友会の編著書、『所有者不明の土地取得の手引―売買・相続・登記手続』(青林書院)の中から一部を抜粋し、不動産の相続について、相続人が外国人である場合や、被相続人が外国人である場合の対応について解説します。

人によって適用される法が異なる「人的不統一国家」

概 説

 

国際私法は存在しないとされている。

 

人的不統一法国である。つまり人によって適用される法が異なる。イスラム相続法はイスラム教徒に対して適用し,インドネシア民法はヨーロッパ人,中国人,アラブ人,その他の外国人の子孫で,宗教の教義にこだわらないインドネシア国民に適用される。それ以外のインドネシア人には慣習法を適用する。

 

1847年公布立法に関する総則16条により,準拠法は本国法を採用しているとの考え方がある一方,住所地主義を採用していると解する立場もある。

 

実務的にはイスラム相続法,インドネシア民法,慣習法の分割協議ができる旨の規定を頼りに遺産分割協議ができれば,協議書をもって相続登記手続を行うことになる。慣習法においては,相続人間で話がつかない場合には長老,宗教指導者が介入して解決するとされている。

 

インドネシア国籍の方が死亡し日本に不動産を有する場合の相続の登記をする際には,その者について適用されるべきインドネシアの法を特定し,かつ当該法の相続に関する法規の根拠を明らかにする必要があると思われる。

 

イスラム法集成,インドネシア民法,慣習相続法によるとそれぞれ誰が相続人になるかについて,以下に簡単に説明する。

 

⒜ イスラム法集成

相続人は,イスラム教を信仰するとみなされる者で,住民票,自認,実践行為又は証言から証明される。新生児又は未成年者は,その父親の信仰又は周囲の環境によってイスラムを信仰しているとみなされる。

 

⒝ インドネシア民法(相続法)*1

直系卑属は,その両親,祖父母,曾祖父母を相続し,生存配偶者は嫡出子と同順位に扱われる。直系卑属,配偶者,兄弟姉妹がいない場合は,その遺産は生存する父又は母が相続する。その他,父母と兄弟姉妹の組み合わせにつき複数のパターンにより相続分がそれぞれ法定されている(インドネシア共和国民法典853号)。

 

⒞ 慣習相続法

第1順位は直系卑属,第2順位は直系尊属,第3順位は兄弟姉妹及びその卑属の近い親等を優先する。

それぞれの法によって調査方法も異なるが・・・

調査方法

 

上述のとおりインドネシアは,人的不統一法国であるから,人によって適用される法が異なる。そのためそれぞれについて,調査する必要がある。イスラム法集成については,公表されていると思われ,大使館に問い合わせるなどすれば,少なくとも原文あるいは英訳は入手できるのではないかと思われる。

 

インドネシア民法(相続法)については,1968年に和訳の書籍が出版されているようであるが,古書であり,蔵書する図書館は少ないと思われる。英訳がネット上で閲覧することができる(“Indonesian Civil Code”との名称で検索すると全文の英訳を掲載しているサイトが見つかると思われる)から,その英訳をさらに和訳する方が容易かもしれない。慣習相続法については厳密には現地の弁護士等に調査を依頼することになると思われるが,相続の登記をするためであることを考えると,慣習相続法を明らかにすることは時間,費用,労力などの負担が大きいことから,実務的にはインドネシア民法の規定に従って,処理するのではないかと思われる。

 

●注 記●

 

*1 JETRO(日本貿易振興機構)のウェブサイト上に,「ビジネス法規ガイドブック(インドネシア)」とのタイトルの101頁にわたる論考が掲載されている(注意書きによると,「本ガイドブックは,日本貿易振興機構(ジェトロ)ビジネス情報サービス課が長島・大野・常松法律事務所 福井信雄弁護士,前川陽一弁護士に調査を委託して取りまとめた」とのことである)。それによると,「インドネシアで現在効力を有している民法典は,1847年に公布された民法典(burgerlijk wetboek voor indonesië(Kitab Undang-undang Hukum Perdata))である。この時代のインドネシアはオランダの統治下にあったため,インドネシア民法典はオランダ民法の影響を強く受けて制定された。第二次世界大戦後に制定されたインドネシア憲法においては,既存の法令は新憲法下で新たな法令が制定されるまでは引き続き有効であるという趣旨の経過規定が置かれたため植民地時代に制定された法令も引き続き効力を有することとなった。投資法や会社法など各種法律が制定あるいは改正されるなか,民法典に関しては未だアップデートがなされていないのが現状である。」とのことである。

本連載は、2017年5月9日刊行の書籍、『所有者不明の土地取得の手引―売買・相続・登録手続』から抜粋したものです。稀にその後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載渉外相続――相続人・被相続人が「外国人」の場合の対応

法友会は、昭和21年12月14日に創立された東京弁護士会内の任意団体であり、現在は、約2600名の会員数を擁する。政策提言、若手の業務活動の拡大、法律相談会の開催、出版など幅広い活動を積極的に行っている(写真は編集担当・黒須克佳弁護士)。

著者紹介

所有者不明の土地取引の手引 ―売買・相続・登記手続

所有者不明の土地取引の手引 ―売買・相続・登記手続

東京弁護士会法友会

青林書院

全国に点在する所有者不明土地。手続上の諸問題につき、相続、売買、登記、税務等の実務上の論点を整理した手引の決定版!取得したい土地の所有者の相続人が多数の場合や相続人の中に外国人がいる場合の対策についても解説。

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