中国との外交・安全保障の「摩擦」をどう防ぐか?

今回は、中国との外交・安全保障の「摩擦」をどう防ぐかについて取り上げます。※本連載は、経済産業審議官、内閣官房参与などを歴任した豊田正和氏と、元海上自衛官で北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた小原凡司氏の共著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)の中から一部を抜粋し、成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」と賢く付き合う道を探ります。

アジア太平洋地域各国が探るべき「二つの異なる方策」

アジア太平洋地域各国は、中国の実力による現状変更に対して、二つの異なる方策を同時に採らなければならない。実力による意思表示と、新たなルール模索のための議論である。前回述べたとおり、中国が、米国及び西欧先進諸国が主導し築いてきた現在の国際関係が不公平であると公言し、ルール自体が間違っていると考えて、日本を含む先進諸国と同じゲームをプレイする意思がないのであれば、単に「ルールを守れ」と要求しても、これを正当な要求と認識しない。

 

また、二〇一五年九月三日の軍事パレード(中国人民の抗日戦争及び世界の反ファシズム戦争勝利七〇周年記念観閲式)におけるスピーチの中で習近平主席が示したように、中国は、部分的にではあっても、国際秩序を変更しようとしている。ただし、「中国が悪い」という感情的な議論は危険である。各国が国益を最大化し、自国を発展させようとすることは、当然のことなのだ。

 

また一般的に、国際関係のゲームに参加するプレイヤーは、ルールに対して多少の不満を持っている。また、いずれの国であっても、国際秩序やルールの変更を求めることはできる。しかし、あくまで議論を通じて、である。

 

各国は、中国の行動の何が問題であり、その背景に何があるのかを理解し、現実的に対応しなければ、摩擦を軽減することは難しい。日本は、中国と東南アジア諸国間の領土問題に直接の関心があるわけではなく、暴力的手段による国際秩序に対する挑戦を問題にしている。軍事的手段ではなく暴力的手段と表現するのは、中国の海洋における活動が人民解放軍だけでなく、法執行機関、さらには漁船等の利用までも含んでいるからである。

 

中国が「現在の国際的なルールが不公平だ」と主張するかぎり、中国の実力による現状変更について、既存のルールを守るよう説得することは難しい。一方で、暴力的手段によってルール変更が可能であると認めることは、国際社会及び地域の不安定化を招く。こうした状況下では、「暴力的手段による国際秩序への挑戦を認められない」という意志を、実力を用いて示す以外に方法はない。

 

そして、中国の実力による現状変更を抑止するためには、中国に対して、相対的により大きなパワーを維持する必要がある。中国に対する米国の相対的なパワーの低下が懸念されるなかで、日本は米国の同盟国として、米国との安全保障協力を強化するとともに、米国と韓国、米国とオーストラリアといった同盟のネットワーク化を図らなければならない。

 

たとえば、日本と韓国は、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に関する合意を交わし、情報共有の強化を図っている。また、オーストラリアとの安全保障協力も進めている。こうした、米国の同盟国間の安全保障協力の強化は、二国間の同盟のネットワーク化を促し、いわゆるパワーシフトを防止し、現状変更を阻止することに役立つ。

米中の衝突回避のため、各国はルール創出の議論開始を

しかし、抑止の効果は常に限定的である。自国の発展を抑え込まれたと感じる中国は、周辺国の抑止を無効にしようと、軍事力を増強する。現在も、中国経済は高い成長率で発展しているのだ。これに対抗しようとすれば、軍拡競争が続くだけである。これでは、双方ともに疲弊して自らの経済状況を悪化させるだけでなく、軍事的緊張を高め、予期せぬ衝突の可能性を高めてしまう。実際に戦争が生起した際のダメージは計り知れない。

 

何より、抑止だけでは問題の根本的な解決にはならない。中国の、現在の国際関係に対する不公平感を払しょくできないからだ。そして、何度も触れているように、中国は、米国が中国の発展を妨害すると考えている。周辺各国が問題視する中国の行動の背景には、多分に、米国の中国に対する軍事力行使への警戒感がある。周辺国にはそのように認識されないとしても、中国は、米国に対して防御的なのだ。

 

中国人民解放軍高級将校の論文等を見れば、中国が防御的なのは、米国との戦闘に勝利できないことを理解しているからでもあると考えられる。それは、中国が米国に対抗できると考えたら、防御的な態度を変える可能性があることを示唆している。

 

たとえば、中国海軍の発展戦略を参考にすれば、米軍を凌駕する時間的ターゲットを二〇五〇年にしているので、ただちに中国が態度を変化させる可能性は低いものの、中国が、国際秩序変更のために実力を用いてはならないこと、あるいは用いる必要がないことに同意しなければ、米中は衝突コースの上に在りつづけることになる。

 

衝突コースを外れるために、各国が我慢できる程度のルールを創出するための議論を始めなければならない。さらに、その基礎として、中国との認識のギャップを埋めなければならない。中国が現在の国際関係を不公平だと考えるのは、欧米先進諸国が、軍事力を用いて自国の利益を拡大した後、自らの利益を固定するために軍事力の行使を禁止したという意識があるからである。

本連載は、2017年7月6日刊行の書籍『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』から抜粋したものです。その後の改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」との付き合い方

一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事長

1949年生まれ。1973年通商産業省入省。
OECD国際エネルギー機関勤務を含め、貿易・エネルギー・環境などの分野で幅広い経験を積む。経済産業審議官、内閣官房参与など歴任。
共著書に『エネルギーと新国際秩序』(2014年エネルギーフォーラム)

著者紹介

笹川平和財団 特任研究員

1985年 防衛大学校卒業、1998年 筑波大学大学院(地域研究修士)修了(修士)。
1985年 海上自衛隊入隊後、回転翼操縦士として勤務。2003年~2006年 駐中国防衛駐在官。2006年防衛省海上幕僚監部情報班長、2009年 第21航空隊司令、2011年IHS Jane’s アナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャーを経て、2013年1月に東京財団、2017年6月から現職。著書に『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバートゥエンティワン)、『曲がり角に立つ中国』(NTT出版)等。

著者紹介

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

豊田 正和,小原 凡司

NTT出版

未来永劫の“永遠の隣国”中国といかに賢く付き合うか。 中国は高度成長がおわりを迎え、社会に不満が蓄積し、諸外国とは不協和音がひびき、大きな曲がり角に立っている。さらに、米国にトランプ政権が誕生し、従来の枠組みの…

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