トランプの「政策方針」は日中の安全保障にどう影響するか?

今回は、トランプの「政策方針」が日中の安全保障にどのように影響するかを考察します。※本連載は、経済産業審議官、内閣官房参与などを歴任した豊田正和氏と、元海上自衛官で北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた小原凡司氏の共著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)の中から一部を抜粋し、成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」と賢く付き合う道を探ります。

トランプ政権の不透明なアジア関与が中国の不安材料に

日中間の安全保障関係を議論する前に、米国の安全保障面の位置付けを整理しておきたい。

 

(1)米新政権の政策の方向性

 

第一に、トランプ政権の安全保障政策の総論的方向である。トランプ新政権は、強いアメリカを志向し、国防力の強化を図る一方で、安全保障活動には、前政権以上に選択的に関与する可能性が高い。どのような分野に関与していくのか、日本が強い関心を有する東シナ海や南シナ海にどこまで関与していくのかあいまいである。また、同盟各国には、より大きな負担を求める方針を明らかにしている。日本は在日米軍の経費として、二〇一六年度には七六〇〇億円を支出し、総経費の七五%近いものとなっている。

 

米軍を受け入れている他国と比べても相当大きな金額である。一方、日本の国防費は、他国と比べてGDPに対する比率が低いのも事実である。米国、英国、韓国の国防費は、それぞれ三・三%、二・〇%、二・六%であるのに対して、日本は一%程度にすぎない。日本が米国の安全保障の傘の下に居つづけるなら、これまで以上に日本の役割を強化していくことは、自然な流れであろう。日本としても、日本の負担すべき分野について、国内コンセンサスを早急に形成しておく必要がある。

 

第二に、各論としての中国との関係だ。一般には、経済面では対中強硬路線だが、安全保障面ではそれほどでもない、との印象を与えている。しかし、事はそう簡単でないかもしれない。

 

一つの中国の大原則を無視するがごとき台湾総統との電話会談があったかと思えば、オバマ前政権が冷たくあしらったAIIBや「一帯一路」構想については、米国に利益があるかどうかで判断するとしているようだ。南シナ海が米国の安全保障や経済に悪影響を及ぼすことになれば、選択的関与の対象となりうる。ISに対しては厳しく対応するとしているトランプ政権が、アジアにどこまで関与しようとしているのか、未だに見えていないことが、逆に中国を不安にさせている。

 

北朝鮮を巡る「米国・中国・ロシア」の複雑な関係

第三に、ロシアとの関係だ。オバマ前政権とプーチン政権は、ロシアによるウクライナ侵攻、クリミア併合以降、安全保障をめぐってことごとく対立した。トランプは選挙期間中からプーチンにエールを送り、プーチンもこれに応える形で双方の協力関係の構築がささやかれている。プーチン政権が、米国大統領選挙でクリントンの不利なメール情報の暴露に関与したかどうかは定かではないが、結果として成立したトランプ政権としては、少なからぬ恩があるように思っている可能性がある。

 

さらに、国務長官候補となったエクソン・モービルのCEOのティラーソンはプーチン大統領と懇意であり、ウクライナ侵攻を契機としたロシア制裁についても反対の立場を表明してきた。対ロシア協力を提唱していたマイケル・フリン大統領補佐官の辞任という混乱はあるものの、米ロ関係は改善すると見ることができよう。

 

一方、ロシアは西のゲームに失敗し、東で新しいゲームを始めようとしている。その場合、ロシアにとってみれば、米中の仲が良いよりは、対立したほうがよい。そのほうが東でのゲームに勝つチャンスが増えるからだ。

 

以上の状況を踏まえれば、米ロは、話しあうことになろう。どこまで米ロ協力が進むかわからないが、プーチン大統領にとっては、米ロの対立が緩和し、米中が対立したほうが望ましい。複雑なゲームが始まる可能性がある。

 

第四に、北朝鮮との関係だ。トランプ政権は、北朝鮮との対話の用意があるかの印象を与えている。一方で、中国が北朝鮮を締め付けることを期待するような発言も行っている。中国にとっては、北朝鮮を締め付けてロシアになびかれるのも歓迎できないし、北朝鮮と商売をして潤っている遼寧省が反発するのも気になっていた。

 

米国自身が北朝鮮と交渉し、朝鮮半島から核兵器がなくなれば、中国にとっても望ましい。一方、ロシアにとっては、北朝鮮という爪が取れることは対アジア・カードを一枚失うことになる。北朝鮮をめぐって、米中ロは、複雑な関係にある。

 

本連載は、2017年7月6日刊行の書籍『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』から抜粋したものです。その後の改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」との付き合い方

一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事長

1949年生まれ。1973年通商産業省入省。
OECD国際エネルギー機関勤務を含め、貿易・エネルギー・環境などの分野で幅広い経験を積む。経済産業審議官、内閣官房参与など歴任。
共著書に『エネルギーと新国際秩序』(2014年エネルギーフォーラム)

著者紹介

笹川平和財団 特任研究員

1985年 防衛大学校卒業、1998年 筑波大学大学院(地域研究修士)修了(修士)。
1985年 海上自衛隊入隊後、回転翼操縦士として勤務。2003年~2006年 駐中国防衛駐在官。2006年防衛省海上幕僚監部情報班長、2009年 第21航空隊司令、2011年IHS Jane’s アナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャーを経て、2013年1月に東京財団、2017年6月から現職。著書に『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバートゥエンティワン)、『曲がり角に立つ中国』(NTT出版)等。

著者紹介

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

豊田 正和,小原 凡司

NTT出版

未来永劫の“永遠の隣国”中国といかに賢く付き合うか。 中国は高度成長がおわりを迎え、社会に不満が蓄積し、諸外国とは不協和音がひびき、大きな曲がり角に立っている。さらに、米国にトランプ政権が誕生し、従来の枠組みの…

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