前回は、工事の遅延を防止する「プロジェクト・バッファー」の重要性を説明しました。今回は、建設プロジェクトの「工期の短縮」を実現する方法を見ていきます。

検討会を開催し、工事のリスクを事前に洗い出す

社内の人間だけで全ての作業を行うプロジェクト管理(例:ソフトウェア開発)でさえかなり難しいのですが、それが社外の外注業者ばかりを使ったプロジェクト管理(建設工事)となるとさらに難しくなります。

 

外注業者は他にも仕事を抱えていますから、C社の仕事と他の仕事の間でそのタスクができる人間の奪い合いが生じるのです。いわゆる資源競合の問題です。

 

こんなにも難しいことを多くの日本の建設業者は実施しているのです。赤字会社が多くても当たり前という感じがします。とは言うものの、工期内に工事を終了させるためには、とにかく「変動性」と「従属性」を管理せねばなりません。

 

そこで、建設工事に入る前に、必ず外注業者とC社の現場管理者及び上席者が出席する「工事に係るリスク事前検討会」を開催することとしました。

 

各工事専門会社が詳細な設計をする時に大きな問題となっていたのは、まさに「従属性」の問題でした。躯体、外壁、タイル、エレベーター、窓枠サッシのような専門分野で、設計担当者は当然違うわけですが、これらはタイルのサイズが決まらないと躯体や窓枠の大きさが決まらないという、互いに密接な関係があったのです。

 

それまでは、こうしたとても大事な問題なども一堂に会して事前にリスクを検討する場がなかったため、各専門会社同士で連絡を取り合い、なんとか仕事をこなしてきたというような状況でした。従って、工事開始前に問題点が議論されないままに、工事開始後になって問題が顕在化し工事が遅れるという結果になっていたのです。

 

この検討会を開催して、工事の抱えるリスクを事前に全て洗い出すことで、工事開始後に予想もしていなかった大きな問題が生じることはなくなりました。

 

個々の外注業者が見積期間内に設定していた独自のバッファーを取り除くという協力を可能にし、さらに、外注業者の工事スケジュール管理を工程ごとにブレイクダウンしたガントチャートで積極的に管理したことによって、個々のタスクの作業期間の短縮化にも成功しています。

 

普通の元請会社と下請会社との関係ならば無理だったかもしれませんが、C社の場合、先代の頃から協力会社に対する面倒見が非常に良く、外注業者の業況が悪化した際には積極的な支援なども行っていました。そのためグループ会社であるかのような強い結束力で結ばれていたので、C社からの「当社だけでなく、協力会社の皆さんも、もっと儲かるようにしたいから協力してほしい」という願いを真摯に聞いてもらうことができたのです。

 

結果、C社から赤字工事が皆無になり、年間のキャッシュフローも大きく増加しました。赤字工事がなくなることに加え、工期の短縮化によって年間にこなせる工事件数も多くなったのですから、当然の結果と言えるでしょう。

工期短縮によって「公共工事の落札率」も上昇

もう一つ、大きなメリットがありました。それは協力各社の見積もりからバッファーを極力排除したことで、見積もり段階から工期の短縮化と工事原価の低減が図れたために、公共工事の落札率がさらに高まったことでした。

 

「変動性」と「従属性」という今まで聞いたこともない言葉が、C社のモノの見方を変えました。今まではなんとなく感覚で分かっていたような言葉です。しかし、「なんとなく分かっている」状態では、その先には進めません。具体的な言葉にすることで前へ進む具体策が見えてきます。具体的な言葉が未来を作るのです。これも言葉の力の一つだと感じた案件でした。

 

ここまで、原価の固変分解を通じた価格政策の話、海外製造子会社を有する場合の連結会計的視点で全体を見る話と、制約条件理論(TOC)を活用したプロジェクト管理について説明しました。

 

いずれもロジックの世界の話です。ロジックの世界の話ではありますが、管理会計の使い方が分かっていないため、本来であれば(管理会計を使って)見えるべき大切な情報が見えず、売上の取りこぼしが生じ、ビジネスが上手く回らなくなっている例です。

 

売上の取りこぼし(=機会損失)は永遠に取り返すことはできません。皆さんの会社にも機会損失はごろごろと転がっていると思います。すぐそばに転がっているけれども、気付かない。頭の中にちょっとした道具が備わっていれば見えるのですが、悲しいかな、多くの人にはその道具が備わっていません。ある種の専門家でさえそうなのですから。

 

これらは全てロジックの世界の話なので、頭を使って考え抜かねばならないことではありません。素直に数字の因果関係を捉えて、仮説を立て検証すればよいだけです。

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