前回に引き続き、「機器製造メーカー」の事業再生事例を見ていきましょう。今回は、判明した数々の問題点をどのように解決したのか、その続きを紹介します。

見積もり回答の遅れを許容する社内文化の改革

前回の続きです。

 

●営業マンは、自らが受注した一括加工案件の各加工で利益を出さねばならないと考えている。一括受注した案件については一括で一定の利益が確保できればよいわけで、「全ての加工依頼品で利益を出さねばならない」という営業部の暗黙の了解は会社全体の利益を制約する「制約条件」である。従って、今後は一括受注案件ごとで一定の利益を確保すればよいという方針に変更し、営業部全体でこれを徹底する。

 

●見積もりの回答は、製品等の納期とは別物で多少遅れても構わないという文化が社内にある。しかし顧客からすれば、早く見積もりの回答をもらって投資の決定をして、収益を上げたいという思いが強いはずであり、「見積回答」の納期も早めるべきであることは当然のことである。机に見積依頼が山積みになっていることは異常状態なので、とにかく早急な処理を徹底する。

 

特に中国子会社では、見積もりができるスタッフが一人しかいない。そのスタッフのノウハウを他の営業スタッフに伝えるべきだが、当人が自分だけのノウハウにしておくほうが社内でのポジション確保に有利なので他人には教えたくないと言う。難しい問題ではあるが、社長と相談して対策は考えなければいけない。

中国子会社に納期の遵守を徹底させ、進捗も常に確認

●中国子会社では納期遅れが常態化しており納期遵守の意思がない。納期は遵守すべきものであり、現地の日本人管理者に指導を徹底させる。従前は案件ごとの納期管理を実施しなかったが、進捗案件の全てで納期まで進捗状況のモニタリングを徹底させる。

 

●中国子会社では納期回答にバッファーを持たせることが常態化していた。製造部から営業部への納期回答、営業部から顧客への納期回答という2種類の納期回答があり、合計10日間のバッファーを持たせているが、それでも納期遅れが生じるという悪循環が生じている。

 

中国子会社での製造部から営業部への納期回答にはバッファーは含ませないものとし、営業部だけにバッファーを持たせることとする。納期回答において各工程の管理者がバッファーを含ませることは、プロジェクト管理における人間の行動特性として覚えておく必要がある。

 

●仕掛品が多く滞留している工程の前工程では、フル稼働して単位時間あたりに多くを加工しても意味がない。従って、前工程は仕掛品が多く滞留している工程の生産スピードに合わせることを徹底する。また、時間が余るならば設備のメンテナンスや工場の掃除を実施する。

 

一見複雑そうな問題ですが、会社全体を俯瞰して問題解決に取り組めば、このようなバランスの良い解決策を瞬時に提示できます。頭を使う場面はほとんどないので、ロジックの世界の問題解決は実はとても楽なのです。

 

ただしこの問題で言えば、連結の概念、移転価格税制の世界的な潮流、オペレーション(TOC:制約条件理論)、プライシング等に関する基礎知識が必要であることは言うまでもありません。

 

なお、これ以外にも多くの問題と課題があったB社ですが、1年後には連結ベースで粗利益率30%程度にまで回復しました。営業マンの教育は道半ばですから、まだよくなる可能性を秘めています。

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    本連載は、2017年5月26日刊行の書籍『「事業再生」の嘘と真実 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    弓削 一幸

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