「値上がり」が期待できる絵画の見分け方

有名作品ともなれば今や数百億円で売買されるケースもある「フランス近代絵画」。本連載では、このフランス近代絵画を中心に取り扱う翠波画廊の代表である髙橋芳郎氏に、フランス近代絵画の魅力、そして「資産」として見た場合の価値などについて、詳しく解説していただいた。第4回目は、「値上がり」が期待できる絵画の見分け方について取り上げる。

資産として考える場合は「歴史的評価の定まった作家」

前回お話したように、事業を行っている方であれば、100万円未満の美術品を、経費もしくは減価償却資産として、節税の対象にすることができます。これは、その程度の価格帯の美術品であれば、歴史的な価値もそれほどはっきりと定まっていないので、年月を経ることで価値が減少するだろうと、税務署が考えていることを示します。その考えはおおむね間違っていません。実際、すべての絵画が、買った時と同じ値段、もしくは買った時よりも高く売ることができるわけではないからです。

 

買ったときよりも高く売ることができる絵画というのは、その値段でも欲しいというお客さまが、他にもいる絵画だけです。言い替えれば、オークションなど、セカンダリーと言われる中古市場でニーズのある絵画だけが、値上がりの期待できる美術品です。そうでないものは、自室に飾っている限りは価値のある絵画ですが、必要がなくなったら引き取り手を探す必要がある、ただの絵です。

 

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では、値上がりの期待できる絵画と、そうでない絵画とを、どのように見分けたらよいのでしょうか。一般的にいえば、その絵を描いた作家が亡くなって30年経ってからも、まだ人気があって中古市場で取引されているようであれば、価値が歴史的に認められて、値下がりのしない絵画であると言えるでしょう。作家の没後30年というのは、どれくらいの時間間隔であるかといえば、シャガールの没年が1985年、ウォーホルの没年が1987年、バスキアの没年が1988年、ダリの没年が1989年で、だいたいそれらよりも以前の画家であれば、評価が定まっていると考えられます。

 

近年、バスキアの絵画がオークションにおいて高値で競り落とされるようになったのも、歴史的な評価が固まった表れなのでしょう。ですから、長期的に価格が安定した資産としての絵画を求めるのであれば、やはりエコール・ド・パリ以前のフランス近代絵画、もしくは初期のアメリカ現代美術までにしておくのが安心です。

無名作家の「青田買い」も選択のひとつだが…

ところが、評価の定まった画家の絵画というものは高額になりがちです。印象派の絵画などを買おうとすると、とても100万円未満には収まりません。やはり、税法というものはうまくできているのでしょうか。画商である私からすると、必ずしもそうとは言いきれない面があります。物事にはさまざまな側面があり、評価の定まった画家であっても、すべての作品が高額になるとは限らないからです。

 

たとえば、一点ものの油絵や水彩画は高額であっても、何枚も印刷された版画であれば、同じ作家の作品でも、比較的安価に入手できる可能性があります。ピカソやシャガールのような有名作家であっても、版画であれば、100万円未満で買えることが多いです。

オリビエ「アラベスク」(油彩10号)
オリビエ「アラベスク」(油彩10号)

また、中古市場すべての商品に言えることですが、状態の悪いものや瑕疵があるものは、相場よりも安くなる傾向があります。評価の定まった作家の作品だからといって、はじめからあきらめる必要はないのです。もちろん、まだ知名度の低い作家の作品を、将来的な値上がりを期待して、青田買いすることもできます。

 

しかし、その作品に本当に感動したのであれば、ぜひ購入するべきだと思いますが、そうではなく価格が上がることを期待しての投資であれば、注意したほうがいいでしょう。というのも、存命中の作家の作品は、たいていの場合、作家の死後に価格が下がってしまうものだからです。評価の定まっていない作家の作品を買うのは、投資というよりも投機です。うまく当たれば、何十倍、何百倍になることもありますが、ほとんどは売れない絵になってしまいます。

「100万円未満の美術品」は節税対象にもなる

美術は、非常に競争の激しい世界です。芸大や美大など、美術系の大学や専門学校の卒業生は毎年1万5000人にのぼります。そのうち、芸術家として作品制作だけで生計を立てられるようになる人は、1人いればよいほうです。世間に知られるような芸術家は、10年に1人しか出てこないとも言われます。

 

実際、あなたは存命の日本人芸術家の名前を何人あげられるでしょうか。アートに興味を持っていなければ、片手で数えられるほどしか出てこないでしょう。私自身、美大を卒業しましたが卒業後に芸術家として食べていこうとは考えられませんでした。私自身の興味がすでに画商に向いていたこともありますが、画家が職業として成立しづらいことを美大にいる頃からよく分かっていたからです。

 

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それだけ成功の確率が低い業界ですから、無名画家の作品を買い、将来の値上がりを期待するのは博打のようなものです。美術品を資産として考えるのであれば、歴史的評価の定まった作家の作品購入をお勧めします。

 

しかし、個人的なことを言えば私は皆様に心の打ち震えるような作品と出会ってほしいですし、そのような作品を見つけたなら、それが無名作家であっても、ぜひ購入して頂きたいと考えています。それは、価格の上がる資産にはならないかもしれませんが、価値のある精神的な資産となって、あなたの心を豊かにしてくれるからです。

取材・文/田島隆雄
※本インタビューは、2017年8月14日に収録したものです。

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株式会社ブリュッケ 代表取締役

1961年愛媛県生まれ。多摩美術大学に進学後、美術大学で彫刻を専攻する過程で、人々の生活に溶け込む平面表現の魅力に目覚め、絵画の世界へ転向。卒業後、都内の画廊での修行を経て、1990年に独立。東京・銀座に、故郷の秀峰の名を冠した「翠波画廊」をオープンさせる。以降26年の長きにわたり、ピカソ、マティス、藤田嗣治、ユトリロ、ローランサン等、絵画愛好家なら誰もが知っている巨匠の作品を数多く扱う。特に20世紀初頭に活躍したフランス近代の画家に造詣が深い。
翠波画廊https://www.suiha.co.jp/

著者紹介