有名作品ともなれば今や数百億円で売買されるケースもある「フランス近代絵画」。本連載では、このフランス近代絵画を中心に取り扱う翠波画廊の代表である髙橋芳郎氏に、フランス近代絵画の魅力、そして「資産」として見た場合の価値などについて、詳しく解説していただいた。第3回目は、「資産」としての絵画の優位性について見ていきたい。

「使用する資産」と「価値を保全する資産」の違い

私たちが資産というとき、それはたいてい有価証券や不動産などを指すことが多いようです。しかし、会社を経営している方であればご存じのように、税務上は10万円以上のものすべてを資産に計上することになります。10万円というのは、実はそれほど大きな金額ではありません。最新型のパソコン一式や、応接セット、あるいは大型冷蔵庫や洗濯機などはすべて資産になります。もちろん、工場の業務用機械、店舗の内装設備、そして自動車やバイクなども大切な資産です。

 

しかし、ここで計上される資産の大部分は不要になっても取得価格での売却が難しいという意味で、資産としては不安定なものです。工場の設備や機械などは、同じような業種でなければなかなか買い手を見つけられませんし、自動車やバイクなどは、新車で買った瞬間に手放しても中古車として価格が下がってしまいます。電機製品や家具なども、中古を欲しがる人が少なく市場が整備されていませんから、売却できる資産とは言い難いです。

 

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だからといって、文句を言う人はそれほど多くないでしょう。上記のような業務上使用する資産は、その使用年月に伴って価値が減少するのが当たり前だからです。言い換えれば、工場の設備や機械は、永続的に価値のある資産として買われているのではなく、使用するために買われている資産です。

 

一方で有価証券や不動産は、株主の権利や住居用などに使用することも出来ますが、どちらかといえば、価値を保全するための資産として購入されています。もちろん、有価証券や不動産などの資産も、必ずしも取得価額で売却できるとは限りません。株の値動きが激しいことはよく知られていますし、不動産も長期的には値下がりが続いています。

 

大田和「街道から」(油彩10号)
大田和「街道から」(油彩10号)

 

しかし有価証券も不動産も、もしかすると将来的に値上がりして、取得価額以上で売却できるかもしれないという期待感があります。下がることもあれば上がることもあって、大きな社会変動などがない限り、大局的には価格が安定していることが、価値を保全するための資産の条件でしょう。このとき、多くの方にとって盲点となっている資産に、美術品があります。

資産としての「美術品」と「株」の違い

美術品は、機械のように使用する資産と、有価証券のように価値の安定した資産のどちらかに属するかといえば、もちろん後者です。ある程度価値の定まった絵画などは、株と同じで時期によって多少の値動きはありますが、基本的には価格の安定した資産だと言えるでしょう。当たれば大きく値上がりするかもしれないという期待感があるところも、株とよく似ています。

 

しかし、美術品が株と異なるのは、業務に使用する資産として減価償却の対象にもなっていることです。減価償却とは、長期的に経費として償却ができることです。10万円未満の機械や備品などは、購入したその年に全額を経費として償却できますが、10万円以上の機械や設備などは、当初はそのほとんどが資産として計上されますが、使用に従って価値が減少していくために、毎年少しずつ経費として償却していくことになっています。これを減価償却といいます。つまり、美術品は株のように値上がりの期待できる資産であるのにもかかわらず、税務上は、車や建物のように、使用期間に伴って価値が減少していく資産として扱われているのです。

 

具体的にいえば、取得価額が100万円未満の美術品は、原則として減価償却資産になりますし、100万円以上の美術品であっても「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」であれば、減価償却資産として認められます。ですから、株や土地と違って美術品は、経費として節税もできる資産なのです。

 

ちなみに、取得価額が10万円未満の美術品の場合は、購入した年度に全額を経費として一括償却することが可能です。このことは、他の備品や消耗品と同じ制度で、一般的にもよく知られています。

大きく節税が可能な「期限付き特例」にも注目

もう一つ、中小企業には平成30年までの期限付きで、特例があることをご存じでしょうか。資本金が1億円以下の中小企業や個人事業主などは、取得価額が30万円未満であれば、合計で年間300万円までは、資産計上せずに、その年度内に全額を経費として償却できるのです。

 

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この特例を上手に使えば、中小企業は大きく節税ができます。20万円の絵画を15枚買っても、経費として処理できるからです。もちろん、他の備品や消耗品も300万円の枠内に入りますから、美術品ばかりを買うわけにはいかないでしょうが、覚えておいて損はないでしょう。

取材・文/田島隆雄
※本インタビューは、2017年8月14日に収録したものです。