今回は、施設・事業所の統合で大規模化が進む介護・福祉業界の展望を見ていきます。※本連載は、社会保険労務士、社会福祉士の資格を活かしたコンサルタントで、「福祉介護業界」に特化した人事制度や労務管理へのアドバイスを全国の顧問先で行う、株式会社シンクアクト代表・志賀弘幸氏の著書、『ビジネスとしての介護施設』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、介護施設の経営改善策を解説していきます。

介護事業の終了は「廃業」から「事業譲渡、M&A」へ

ここ数年、介護業界では民間の介護事業者の事業譲渡やM&Aが頻繁に行われるようになってきました。また、2015年4月の介護報酬改定の影響は、特に小規模のデイサービス、訪問介護事業者に大きく、廃業に至るケースも増加傾向です。

 

私の会社にも「経営はこれ以上できない」「制度改正の度に振り回される業界に疲れた」「介護事業以外の柱になる新規事業を考えたい」などの相談が増えています。

 

今までは介護事業の終了については「廃業」という形が多かったのですが、最近は事業譲渡やM&Aという形をとることで、ご利用者が引き続き利用でき、また従業員も引き続き雇用可能な形で介護サービスの提供は継続するようになってきています。今後もこのような事業譲渡やM&Aによって、経営力のある事業者が事業規模を拡大する傾向はしばらく続くのではないかと考えています。

社会福祉法人が組織拡大で享受するメリットは多い

一方で、社会福祉法人についても規模の拡大傾向にあると言ってよいでしょう。平成18年に「社会福祉法人経営の現状と課題」報告書(社会福祉法人経営研究会)が社会福祉法人の規模拡大の必要性について触れています。

 

社会福祉法人の約9割が中小規模の法人で、中小企業基本法では「中小規模とは従業員100人以下または資本金5000万円以下とのサービス業(福祉等)」と定義されています。社会福祉法人に資本金はありませんので、社会福祉法人の7割が従業員100人以下の小規模で事業展開をしているということです。

 

しかし、今後は福祉に対するニーズが多様化し、多岐にわたるサービスを提供できる施設が求められるようになってきます。そうなると、小規模な法人では人材もいないことから新たなサービスの体制を構築することも難しくなります。従来のような「一法人一施設」を基礎とした規模ではなく、複数の施設・事業を運営し、多角的な経営を行える=「規模の拡大」を目指すことが有効な方策ではないでしょうか。今後は小規模な社会福祉法人同士の連携や合併など事業規模を大きくするなどの策を厚労省も推奨していくのではないかと思います。

 

そして実際、福祉医療機構の「平成26年度社会福祉法人の経営状況について」という報告書に、「規模別の経営状況では、サービス活動収益規模が大きいほど赤字法人の割合は減少しており経営が安定していた」との一文がありました。また、事業規模の拡大によって複数事業が可能になり、次のようなメリットがあったとしています。

 

「事業間で共通して使用する備品等の一括購入による経費削減ができた」

「事業間で人事異動を行うことによる職員のキャリアプランの充実が図れた」

「障害福祉サービスの利用者が高齢化することに伴う介護保険事業との連携」

 

このように社会福祉法人は、規模の拡大に対応しなくてはなりません。そして組織が大きくなると、経営マネジメントがますます威力を発揮することになります。

 

組織が拡大するということは、必然的にスタッフが増えます。小さな組織であったときは、経営者や管理者の目が届きやすいこともあり比較的管理もしやすいのですが、規模が拡大するとともに管理者等の目も届きにくくなり、人間関係の問題や人材教育の問題など「ひと」に関する新たな課題も発生します。ですが、広範な人事異動が可能となったり、その中で職員のキャリア形成を図ることも可能になったりとメリットも大きいです。また計画的かつ定期的な人材募集が可能になるでしょう。

ビジネスとしての介護施設

ビジネスとしての介護施設

志賀 弘幸

時事通信出版局

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