「仲裁手続」の費用を抑え、期間を短縮する手段①

今回からは、「仲裁手続」の費用を抑え、期間を短縮する手段を見ていきましょう。※本連載は、オリック東京法律事務所の外国法共同事業訴訟部、代表パートナーの髙取芳宏氏と、同じくオリック東京法律事務所の外国法共同事業訴訟部パートナーの矢倉信介氏の編著、『最新 クロスボーダー紛争実務戦略』(レクシスネクシス・ジャパン)より一部を抜粋し、国際仲裁の迅速化と費用節約の方策について説明します。

ICCの費用表により、仲裁人の手数料比率は比較的低い

前回の続きである。

 

2. 仲裁手続の費用を抑え、期間を短縮する手段

 

期間や費用についての利用者の懸念に対応するために尽力した機関の1つにICCがある。ICCの仲裁委員会は、2007年に「国際仲裁における時間及び費用の管理手法の報告書」を発表した。この報告書では、ICCの仲裁では費用が平均して以下のように分配されていると結論している。

 

● ICCの一般管理費:2%

● 仲裁人の手数料及び経費:16%

● 事件を提訴するために当事者が負担する費用:82%

 

(1) 仲裁人の手数料

仲裁人の手数料の比率が比較的低いのは、ICCの費用表によるところが大きい。仲裁人の費用は、紛争額と正比例し、比較的低く、予測しやすい。小規模な紛争については単独の仲裁人を任命するのが一般的な傾向になっていることも、ICCの手数料が比較的低い要因である。

 

これに対し、LCIAなど、仲裁人にタイムチャージで手数料を支払っている機関も存在する。仲裁人が小規模な紛争に必要以上に時間をかける場合には、ICCが採用したシステムと比べて手数料が高くなるかもしれない。

 

アドホック仲裁では、仲裁人が自らの手数料の計算手法を決定する。仲裁人の裁量が大きく、当事者は事件に決定を下す仲裁人を前にして手数料を交渉する際に難しい立場に置かれる可能性がある。

仲裁費用の約82%は「仲裁手続の遂行」に関連

(2) 仲裁手続の遂行

ICCの算定によると、仲裁費用の約82%は、当事者による実際の仲裁手続の遂行に関連しているため、手数料のこの部分に注目すれば、費用を最も削減できる。前述のロンドン大学クイーンメアリーカレッジの調査から、利用者は、手続の長さに最も影響しているのが、文書の開示と書面の提出である、と考えていることが分かった(※1)。

 

(※1)ロンドン大学クイーンメアリーカレッジ、スクール・オブ・インターナショナル・アービトレーション「2010年国際仲裁についての調査:国際仲裁における選択」32頁図30(http://www.arbitrationonline.org/research/2010/index.html)

 

当事者は、しばしば、必要以上に長く複雑な手続を行うことがある。当事者間で手続について合意する場合又は一方の当事者が広範な手続を求め、仲裁人が他方当事者の異議申立てを認容する場合にこのようなことがよく起こる。こうした手続の長期化に特に大きな影響を与える要素が2つある。

 

● 争点と関連しない文書開示の要請

● 不要な証人及び専門家による証言

 

仲裁で採用される開示手続は、しばしば、仲裁人の法的背景、裁判地、弁護士の法的背景に依拠する。コモンローのシステムのうち、特に米国では、広範なディスカバリーを許容する傾向にある一方、大陸法では制限的な手法をとる傾向がある。当事者及び仲裁人が、適切な開示範囲を考慮する際に、これらの法律的な慣行が参考にされるかもしれない。開示手続が大幅な書類事務につながり、膨大な費用がかかる場合もある。

 

国際仲裁における文書開示は通常、制限的なものである。これは仲裁手続にIBA国際仲裁証拠調べ規則が広範囲に採用されているためである。かかる規則では以下を含む基準が定められている。

 

● 当事者は、自らが依拠する入手可能なすべての文書を仲裁廷に提出しなければならない

 

● 文書提出要求には(a)特定可能な程度の各文書の表示等、(b)対象文書が、どのように当該仲裁事件と関連性を有しており、かつ当該仲裁事件の結果にとって重要であるのかについての記述、(c)文書提出要求を行った当事者が対象文書を所持、管理若しくは支配していない旨の記述等

 

この話は次回に続く。

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連載クロスボーダー紛争実務戦略〜「国際仲裁」利用の迅速化と費用節約のポイント

オリック東京法律事務所
外国法共同事業訴訟部
代表パートナー 

1998年ハーバード大学ロースクール卒業(LL.M.)。日本及び米国ニューヨーク州の弁護士資格登録。英国仲裁人協会(CIArb.)所定の上級仲裁人(FCIArb.)。日本仲裁人協会(JAA)常務理事、英国仲裁人協会・日本支部共同代表。主に複数の管轄にまたがる民事、商事、知的財産権、製造物責任、独占禁止法等の国際訴訟・仲裁を扱い、FCPA、UKBA、のコンプライアンス事案、内部通報を含む労働法関連紛争などを手掛ける。

著者紹介

オリック東京法律事務所
外国法共同事業訴訟部
パートナー 

京都大学法学部、ニューヨーク大学ロースクール、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス及び北京大学法学院各卒業。日本及び米国ニューヨーク州弁護士登録のほか日本の弁理士資格を保有。国内外の企業を代理して、主に知的財産権、独占禁止法、製造物責任、労働法及び労働法関連紛争を含む、複数の管轄をまたぐクロスボーダー型紛争解決案件を手掛けるほか、各国賄賂規制、カルテル調査及びサイバーセキュリティを含むコンプライアンス案件についても多くの経験を有する。

著者紹介

最新 クロスボーダー紛争実務戦略

最新 クロスボーダー紛争実務戦略

髙取 芳宏,矢倉 信介

レクシスネクシス・ジャパン

日本企業が戦略的にクロスボーダー紛争の予防・解決を図るための具体的な実務対応をアドバイス 近時のビジネスは、クロスボーダー化していることはもちろん、紛争事案も複数の管轄が絡む複雑なものとなっているため、これに巻…

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