クロスボーダー紛争の「仲裁システム」にまつわる問題点

今回は、クロスボーダー紛争の「仲裁システム」にまつわる問題点を検証します。※本連載は、オリック東京法律事務所の外国法共同事業訴訟部、代表パートナーの髙取芳宏氏と、同じくオリック東京法律事務所の外国法共同事業訴訟部パートナーの矢倉信介氏の編著、『最新 クロスボーダー紛争実務戦略』(レクシスネクシス・ジャパン)より一部を抜粋し、国際仲裁の迅速化と費用節約の方策について説明します。

仲裁手続期間の長さ、高額な費用等に批判の声も

紛争解決手続としての仲裁の利用者が増えた結果、仲裁のシステムに批判的な声も増えてきた。恐らく最も一般的な批判としては、仲裁手続が不当に長く費用が高いことが挙げられる。

 

これらの問題点は密接に関連しており、手続が長引けば通常、費用も増加する。そのため、かつて国際仲裁は、国内の裁判所に代替する手段として費用効率がよく便利だとされていたが、かかる点が仲裁システムの利用者が不満を抱く主要な理由の1つとなってきた。

 

1. えられる回答

 

かかる批判の評価はさまざまである。利用者が十分に満足しているか否かにかかわらず、国際仲裁は機能するシステムだと評価する声もある。

 

相手方所在地の裁判所での、長引く、不確実な手続を遂行することに伴うリスクを取りたくない当事者間で紛争を解決するためには、国際仲裁が、最良の、時には唯一の受入可能な選択肢であることは否定できない。かかる考え方は特に新しいものではない。

 

「予測可能な将来においては、仲裁よりも広く実用的な手段はない(※1)」

― フィリップ・フシャール(Philippe Fouchard)1989年

 

(※1)Philippe Fouchard「Où va l’arbitrage international ?」34 McGill L.J. 435(1989)

 

仲裁手続が不当に長くその費用が高いとの批判は、裁判手続との比較によって考察することができる。

 

国際仲裁は、複数レベルの再審理がある複雑な州裁判所における手続(連邦主義的なシステムでは状況がさらに悪化する可能性がある)より、費やす時間が短いかもしれない。同様に、例えば広範なディスカバリー制度が存在する地域によっては、国際仲裁のほうが裁判手続より費用がかからないかもしれない。

国際仲裁はサービス、重要なのは「紛争の当事者」

上述した考察は、確かに仲裁制度に対する批判に関する問題分析の一助にはなるかもしれないが、国際仲裁はサービスであり、一部の利用者が提供されたサービスに単純に満足していないという事実を忘れてはならない。

 

「仲裁は道具であり、その存在は取引の利益をもたらす場合に限り、正当化される。重要なのは、仲裁人、弁護士、教授又は裁判官ではなく、紛争の当事者である。彼らを仲裁における会議で見かけることはない又は限りなく少ないが、我々は彼らのしもべである。我々は彼らが必要とする業務を提供しなければ、彼らは我々のサービスを利用せず済ませるだろう(※2)」

― マスティル卿(Lord Mustill)1998年

 

(※2)結論、特別補足1999年、ICC Bulletin

 

国際仲裁の利用者の大多数は、手続の遅延を減らす責任は、仲裁人及び仲裁機関にあると考えている。

 

英国ロンドン大学クイーンメアリーカレッジによる2010年の「国際仲裁における選択」についての調査では、手続の長さに最も影響を及ぼすと利用者が考えているのが仲裁当事者であると判明したが、回答者の30%の大半は、仲裁廷がタイムテーブルを強制することによって、手続を最も合理化できる立場にあると考えている(※3)。

 

(※3)ロンドン大学クイーンメアリーカレッジ、スクール・オブ・インターナショナル・アービトレーション「2010年国際仲裁についての調査:国際仲裁における選択」32頁(http://www.arbitrationonline.org/research/2010/index.html)

 

この話は次回に続く。

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連載クロスボーダー紛争実務戦略〜「国際仲裁」利用の迅速化と費用節約のポイント

オリック東京法律事務所
外国法共同事業訴訟部
代表パートナー 

1998年ハーバード大学ロースクール卒業(LL.M.)。日本及び米国ニューヨーク州の弁護士資格登録。英国仲裁人協会(CIArb.)所定の上級仲裁人(FCIArb.)。日本仲裁人協会(JAA)常務理事、英国仲裁人協会・日本支部共同代表。主に複数の管轄にまたがる民事、商事、知的財産権、製造物責任、独占禁止法等の国際訴訟・仲裁を扱い、FCPA、UKBA、のコンプライアンス事案、内部通報を含む労働法関連紛争などを手掛ける。

著者紹介

オリック東京法律事務所
外国法共同事業訴訟部
パートナー 

京都大学法学部、ニューヨーク大学ロースクール、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス及び北京大学法学院各卒業。日本及び米国ニューヨーク州弁護士登録のほか日本の弁理士資格を保有。国内外の企業を代理して、主に知的財産権、独占禁止法、製造物責任、労働法及び労働法関連紛争を含む、複数の管轄をまたぐクロスボーダー型紛争解決案件を手掛けるほか、各国賄賂規制、カルテル調査及びサイバーセキュリティを含むコンプライアンス案件についても多くの経験を有する。

著者紹介

最新 クロスボーダー紛争実務戦略

最新 クロスボーダー紛争実務戦略

髙取 芳宏,矢倉 信介

レクシスネクシス・ジャパン

日本企業が戦略的にクロスボーダー紛争の予防・解決を図るための具体的な実務対応をアドバイス 近時のビジネスは、クロスボーダー化していることはもちろん、紛争事案も複数の管轄が絡む複雑なものとなっているため、これに巻…

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