今回は、「偶発的な事業中断」の補償について米国裁判所の判例などを見ていきましょう。※本連載は、オリック東京法律事務所の外国法共同事業訴訟部、代表パートナーの髙取芳宏氏と、同じくオリック東京法律事務所の外国法共同事業訴訟部パートナーの矢倉信介氏の編著、『最新 クロスボーダー紛争実務戦略』(レクシスネクシス・ジャパン)より一部を抜粋し、災害時における保険金請求の実務について説明します。

多くの会社で定量化が難しい、潜在的な供給網のリスク

Civil authority、入口/出口、及びサービス中断補償の条項があるにもかかわらず、定型的な「オールリスク担保」保険では、保険業界が「偶発的な事業中断」と呼ぶ、幅広い分野の潜在的な事業中断損失において、かなりの間隙を残している。

 

偶発的な事業中断(Contingent Business Interruption、CBI)補償は、別の会社(典型的な例では供給業者)の業務中断によって生じた、自社の業務中断による利益の喪失を補償する点で、直接的な事業中断補償と異なっている(※1)。

 

(※1)CBI保険は、しばしば公共サービスの中断を除外しているため、両方の補償を得たほうがよいかもしれない。

 

通常、CBI保険はすべてのリスク保険から除かれているが、特約によって追加でき、あるいは個別の保険で購入できる。それぞれの保険は大きく異なる場合がある。以下は相違点の例である。

 

● 補償は保険契約者の直接的な供給業者に制限される場合と制限されない場合がある

 

● 補償は保険契約者の製品やサービスの提供機会の損失を含む場合があるが、一般的には供給の損失に制限されている

 

● 補償は地理的に制限される場合がある。しかし地理的に制限された場合でも、供給が中断された場所、及び損失が発生した場所に保険がどのように対応しているかを調査することが重要である

 

世界中に広がった供給網がますます相互に関連するようになったため、多くの会社では、潜在的な供給網のリスクについて、これを定量化するにはその数が多すぎ、評価が非常に難しい。

 

CBI保険は、保険契約者の事業が依存している供給業者の財産が損害を被った結果、損失を負った保険契約者の保護を目的としている。事業環境や保険で用いられている言葉によるが、誰が「供給業者」としての資格を有するかについて、米国の裁判所の間で意見が分かれている。

 

例えば、Archer Daniels Midland Co. v. Phoenix Assurance Co. of New York(※2)では、ある米国の裁判所が、保険のCBI条項についての大まかな記述を解釈し、間接的な供給業者が含まれるとした。

 

(※2) 936 F. Supp. 534( S.D. Ill. 1996)

 

この事件でCBIに対する補償は、「補償された場所への供給が不可能になってしまうような、いずれかの、製品・サービスの供給業者」の財産の損害を補償していた。

 

国内外で消費される農産物の加工業者である保険契約者のArcher Daniels Midland(ADM)社は、前代未聞の洪水で、その製品を、ミシシッピー川を通じて輸送できなくなった。

 

CBI補償に「いずれかの供給業者」という言葉が使われている点に注目した裁判所は、ミシシッピー川のシステムを運営・管理する米国陸軍工兵隊及び米国沿岸警備隊がADM社との間に契約上の関係がなかったにもかかわらず、保険に基づく「製品及びサービス」の供給業者であるとした。

 

裁判所は、「ミシシッピー川の物理的なインフラに要する資金を、そのシステム利用者に課す燃料税でまかなっているため、工兵隊及び沿岸警備隊が「いずれかの製品・サービスの供給業者」の意味するところに単純に含まれる」と考えた。

 

同様に、Archer Daniels Midland Co. v. Aon Risk Services of Minnesota(※3)では、裁判所はCBI補償を幅広く捉え、ADM社が、自身に穀類を供給できない供給者それぞれを具体的に識別する必要はない、とした。これよって前述のArcher Daniels Midland事件と同様に、CBI補償は「いずれかの」供給業者に言及しており、裁判所はこれを、ADM社に穀物を供給した、あるいは供給することができた農家を含むものと定めた。

 

(※3)No. Civ. 97-2185 JRT/FLN, 2002 WL 31185884(D. Minn. Sep. 27, 2002)

 

こうした事件は、「供給業者」という用語が時には幅広く解釈される可能性があることを示している。間接的な供給業者、保険契約者と直接的な契約関係にない供給業者、そして識別すること自体が難しい供給業者も含まれ得る。

 

裁判所は上記判決において、保険会社が補償を説明するために用いた幅広い用語(「いずれかの供給業者」)に依拠し、その事業を行うため必要な製品・サービスの供給が途絶えたために実際の損失を負った被保険者の合理的な期待を念頭に置いていただろう。しかし、かかる用語がすべてのCBI保険で使われているわけではない。

損失内容の詳細を考慮し、保険文言の分析が必要に

より最近の事件では、米国の第八巡回区控訴裁判所が、「供給業者」は、被保険者との間の契約当事者である会社を意味する、と解釈した。

 

すなわち、Pentair,Inc. v. American Guarantee & Liability Insurance Co.(※4)では、地震が起きて、台湾の工場2か所に電力を供給していた変電所が動かなくなった。その結果、工場はPentairの子会社に供給する製品を生産できなくなった。

 

(※4)400 F.3d 613(8th Cir. 2005)

 

本裁判所は、変電所が保険のCBI条項で意味する供給業者である、というPentairの主張を退け、「電力会社はPentairに直接又は間接的に製品やサービスを供給していないため、Pentairの供給業者ではない」と結論した。

 

Pentair事件でのCBI補償は、「製品及び/又はサービスを被保険者に供給する者の財産に対する損害」の結果、Pentairが被った損失を補償した。Archer Daniels Midland v. Phoenix事件の場合と異なり、この保険では「いずれかの」供給者までは対象を広げず、明確に「製品及び/ 又はサービスを被保険者に」供給する者に限っていた。

 

裁判所は、かかる記述を解釈し、補償範囲をPentairとの間に「直接的な契約関係がある供給業者」に限った。

 

Pentairは、停電がサービスの損失を構成すると主張したが、裁判所は、被保険者の供給業者における停電は、財産の物理的な損失・損害を構成せず、被保険者も損失を被らないとした。

 

こうした事件から、保険契約ないしは約款に用いられている用語の解釈を慎重に取り扱うことが重要であることが分かる。また、CBI保険を提供する保険会社との間で本件の補償範囲に関する紛争が生じた場合、適用される法律いかんによってその解釈が異なり得ることから、法の選択は重要である。

 

さらに、CBI補償に関して紛争が生じる可能性があるのは、損失が発生した場所である。保険で補償される損失は、保険で定義された「地域」で発生している必要がある。しかし、現在の事業は多国籍な性質を有するため、補償の対象となる損失がどこで生じたかが、必ずしも明確ではない場合がある。

 

例えば、最近、ニューヨーク州東部地区連邦地方裁判所は、保険のCBI条項で補償されるためには、物理的な財産の損害と事業の損失が、保険で定められた地域内で起きなければならない旨の保険会社の主張を検討した。

 

Park Electrochemical Corp. v.Continental Casualty Co.(※5)では、保険契約者であるPark Electrochemicalは、基板に使われる電子コンポーネントを製造する子会社2社を運営していた。

 

(※5)No. 04-CV-4916(ENV)(ARL), 2011 WL 703945, at *4(Feb. 18, 2011)

 

Park Electrochemicalのシンガポール子会社で爆発事故が発生し、米国子会社への主要な部品の供給が中断した。契約されていた保険のCBI補償は以下のとおり定めている。

 

「Continental」は、以下に対する直接の物理的な損害・破壊によって生じた、被保険者が占有し、本保険の補償範囲に含まれる場所における事業の、やむを得ない中断の結果、被った損失について支払う。

 

a. 被保険者への直接的な供給業者の財産で、被保険者等への資材の送付を全体的に、あるいは部分的に妨げる結果となったもの。

 

この保険では米国内の「指定された所在地」について具体的に15か所を明らかにしている。さらに、同保険が適用される地域は、「その領土並びに財産を含む米国及びカナダ」に制限された。

 

保険会社は、シンガポールの設備が保険の適用対象地域になく、保険の地域制限から除外されている、と主張した。しかし裁判所は、「補償が適用される損失は、財産の物理的な損害ではなく、営業上の損失であり、かかる損失は保険が定めた地域内で生じなければならない」と結論した。

 

損失は米国で生じたため、請求は保険の対象となった。この判決から、損失の発生場所を含む損失内容の詳細を考慮し、保険の文言を詳しく分析することが非常に重要であることが分かる。

最新 クロスボーダー紛争実務戦略

最新 クロスボーダー紛争実務戦略

髙取 芳宏,矢倉 信介

レクシスネクシス・ジャパン

日本企業が戦略的にクロスボーダー紛争の予防・解決を図るための具体的な実務対応をアドバイス 近時のビジネスは、クロスボーダー化していることはもちろん、紛争事案も複数の管轄が絡む複雑なものとなっているため、これに…

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