海外での災害に関連する主なリスクと保険による補償範囲

本連載は、オリック東京法律事務所の外国法共同事業訴訟部、代表パートナーの髙取芳宏氏と、同じくオリック東京法律事務所の外国法共同事業訴訟部パートナーの矢倉信介氏の編著、『最新 クロスボーダー紛争実務戦略』(レクシスネクシス・ジャパン)より一部を抜粋し、災害時における保険金請求の実務について説明します。

国境を超えるケースが増加・・・保険補償に関する紛争

過去10年間、国際社会における事業及び産業は、一連の自然災害によって過去に例を見ないほどの損害を被った。

 

例えば、2004年に発生した大津波はインド洋地域の18か国に大幅な被害を及ぼした。2005年に発生したハリケーン・カトリーナは、ニューオーリンズ一帯に甚大な被害をもたらし、米国南部における地域社会全体を破壊するにいたった。

 

2011年にタイで発生した巨大かつ破壊的な洪水、そしてもちろん同年に日本に大きな打撃を与えたいわゆる東日本大震災によって、個人や企業のみならず、経済、供給網、さらには国際貿易全体にも甚大な影響を与えた。

 

こうした大災害の後、適切にリスクを評価し、損失リスクに見合う保険パッケージを確保することの重要性が新たに認識され、実際に多くの保険関連事業が生まれるにいたっている。

 

本連載では、市場で提供されている保険の種類、保険によってカバーすることが可能なリスク及び保険金の支払対象となる給付を確保するために対応しなければならない法律上・実務上の諸問題について概説する。

 

事業保険の市場は国際的であり、その主な市場はアジア、ヨーロッパ及び北米にあるため、より大きく複雑な事業損失において生じる保険補償の範囲についての紛争は、国境を超える場合が非常に多い。

 

よって、保険の補償範囲についての訴訟でしばしば論じられる、法の選択及び裁判所の選択の問題点について紹介するとともに、クロスボーダー紛争の合理的解決の見地から、日本企業としての対応策についても紹介する。

できる限り広い範囲のリスクをカバーする保険が必要

<災害に関連する主なリスク及び保険による補償範囲

 

甚大な損失を被る可能性に見合う適切な補償範囲を分析するための第一歩は、災害が生じた場合に事業が直面する可能性があるリスクについて、一覧性のあるリストを作成することである。以下は、災害によって直面する損失についての例である。

 

● 生命の損失

 

● 建物や設備、さらには書面の記録や電磁的記録を含む、財産の破壊若しくは損害

 

● 電力供給、上水、輸送、ロジスティクス、健康サービス、原材料又は部品及び医療用品の供給を含む必要不可欠なサービスの中断

 

● 財産の損失、供給・サービスの中断、又は緊急の要件を充足するための民間機関による強制的な閉鎖による業務の中断

 

● カスタマー・オペレーションズの閉鎖・中断による、事業が提供する製品・サービスの市場の喪失又は中断

 

● 契約上の義務に従うことができない等の結果生じる可能性がある他者への潜在的な債務

 

保険市場では、上述した各リスクに応じた保険商品を提供している。ある会社のリスク・プロファイル(仮定の損失シナリオでその会社が直面する一連の特定のリスク)を理解し、かかるリスクを総合的かつ経費効率を図りながら管理するための保険商品の組合せ及び適切な補償範囲の枠を決定するのは、会社のリスク・マネジャー及び保険ブローカーの仕事である。

 

該当する保険は以下のものを含む。

 

● オールリスク担保保険

‒ 建物、設備、及び有形か無形かにかかわらず、その他一切の分類の財産等、損害を受けた保険契約者の財産の交換又は修繕の支払を行う
‒ 自身の財産の損害によって、自身の事業を続ける能力が中断された場合に、失われた事業機会の価値を補償、並びに
‒ 災害の結果に対応するため政府機関の命令に基づく閉鎖による、事業中断損失を補償

 

● 偶発的事業中断保険

直接又はあり得る間接的供給業者の事業の中断によって自身の事業が中断した場合に、失われた事業機会の価値を補償

 

● 賠償責任保険

自身の事業に対するクレームを防御し賠償金の支払に充当するための費用を負担

 

異なる種類の保険がきちんとかみ合い、できる限り広い範囲のリスクをカバーする完全な保険の補償範囲を提供し、会社に生じ得る危機的損失を可及的に回避するのが理想である。

 

保険契約者や保険会社が、各補償範囲の実際の規模や形式を直視しない場合、保険契約者・保険会社間に紛争が起き、しばしば係争事件や高額の訴訟が生じることになるのは想像に難くない。

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連載クロスボーダー紛争実務戦略〜災害時における保険金請求の実務

オリック東京法律事務所
外国法共同事業訴訟部
代表パートナー 

1998年ハーバード大学ロースクール卒業(LL.M.)。日本及び米国ニューヨーク州の弁護士資格登録。英国仲裁人協会(CIArb.)所定の上級仲裁人(FCIArb.)。日本仲裁人協会(JAA)常務理事、英国仲裁人協会・日本支部共同代表。主に複数の管轄にまたがる民事、商事、知的財産権、製造物責任、独占禁止法等の国際訴訟・仲裁を扱い、FCPA、UKBA、のコンプライアンス事案、内部通報を含む労働法関連紛争などを手掛ける。

著者紹介

オリック東京法律事務所
外国法共同事業訴訟部
パートナー 

京都大学法学部、ニューヨーク大学ロースクール、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス及び北京大学法学院各卒業。日本及び米国ニューヨーク州弁護士登録のほか日本の弁理士資格を保有。国内外の企業を代理して、主に知的財産権、独占禁止法、製造物責任、労働法及び労働法関連紛争を含む、複数の管轄をまたぐクロスボーダー型紛争解決案件を手掛けるほか、各国賄賂規制、カルテル調査及びサイバーセキュリティを含むコンプライアンス案件についても多くの経験を有する。

著者紹介

最新 クロスボーダー紛争実務戦略

最新 クロスボーダー紛争実務戦略

髙取 芳宏,矢倉 信介

レクシスネクシス・ジャパン

日本企業が戦略的にクロスボーダー紛争の予防・解決を図るための具体的な実務対応をアドバイス 近時のビジネスは、クロスボーダー化していることはもちろん、紛争事案も複数の管轄が絡む複雑なものとなっているため、これに巻…

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