老舗企業の伝統的製品における「ブランド拡張戦略」

前回は、ファミリー企業における「ブランド」の機能と効果について取り上げました。今回は、老舗企業の伝統的製品における「ブランド拡張戦略」について考えていきたいと思います。

老舗企業の伝統ブランドを拡張させる際の留意点とは?

ブランドとは、長期的に構築されるものでした。老舗企業の伝統ブランドとは、いわば大きな差別化要因であり持続的な成長の源泉となります。

 

他方、前回連載でも述べた通り、事業承継を受けた後継者は、先代世代によって確立されたブランドにあぐらをかいているだけでは問題が生じます。企業が持続的に成長する上で、自社ブランドの活用と育成のマネジメントが必要となります。また、自社ブランドの活用と育成においては、ブランド拡張の概念がヒントを与えてくれます。ブランド拡張とは、既に確立されたブランドを用いて新製品を開発しようとする戦略のことです。

 

標準的なマーケティングの教科書によると、ブランド拡張の効用としては、既に確立されたブランド資産を新しい製品に活用することができる点があげられています。特に、数世代にわたって承継されてきた老舗企業において伝統的製品や製品群のブランドが確立されている場合は、新製品開発の成功(売上高や利益、企業イメージの向上)の可能性を高めてくれる効用があります。

 

また、一般的に新製品の場合は、消費者による認知がなされていないために、市場導入期において多くのコスト(開拓的広告等)や時間が必要になります。伝統的なブランドの製品の場合には、上記のようなコストや時間を節約できるメリットがあるといえるでしょう。

 

他方、ブランドの拡張には、留意点も隠されています。

 

第一に、ブランド確立されている既存製品とブランドが活用しようとする新製品との関連性が弱い場合、ブランドイメージが曖昧になってしまうことです。例えば、地域の原材料を売りにしている地酒メーカーが、地域と関係のない製品を開発するような場合です。

 

第二に、伝統ブランドが活用された新製品において仮に瑕疵が出た場合、伝統ブランドを有する大元の既存製品にまで、そのイメージ低下による負の影響を与えてしまう可能性があります。

地域にこだわり、ブランドイメージの曖昧化を防ぐ

筆者の調査によると、原材料を地域社会に依存している製造業などでは、地域に根ざし地域に強いこだわりをもっている企業が多くあります。

 

前回の連載でも取りあげた喜多方の大和川酒造店では、喜多方の米と水による本物志向の酒造りを理念にかかげています。同社では、『彌右衛門』ブランドを純米酒や吟醸酒といった複数の製品カテゴリーへと拡充を行っています(この場合、既存ブランドによる既存製品のカテゴリーの拡充のことをブランド拡張と区別して、ライン拡張と呼びます)。

 

それに加え、同社では喜多方という地域にこだわり、原料米を供給する農家を取り込んで大和川ファームという農業法人を設立しています。以前、同社ではレストランチェーンを通じて、同社の地酒とともに、原料となる有機米を提供(新製品の開発)するという取り組みを行っていました。

 

このように、老舗企業が地域にこだわる理由としては、第一に前回連載でも取りあげたブランドの三つの機能が働いていることが考えられます。例えば、喜多方という米の産地、新鮮で芳醇な水など、他社製品との差別化があげられます(識別や保証の機能)。また、喜多方が蔵の街であるからこそ、日本酒をはじめ醤油や味噌の産地であるというイメージを消費者に抱かせる狙いもあるでしょう(想起の機能)。

 

それだけではありません。老舗企業が地域にこだわる第二の理由に、既存ブランドの製品群と新製品との関連性が弱い場合の欠点(ブランドの拡張に伴う負の効果)を補う狙いが考えられます。

 

地元密着型の老舗企業の場合は、大手企業と比較して、製品自体のブランドの確立が十分でない場合もあります。そこで、地域に根ざす老舗企業は、地域の資源やネームバリューに依拠する範囲内で自社ブランドを拡張することによって、自社製品のブランドイメージの曖昧化を防いでいるとも考えられます。言い換えれば、地域とは、地元密着型の老舗企業が自社製品のブランドのアイデンティティーを確立する上で補完的な役割を果たしているといえるかもしれません。

 

次回の連載では、事業承継を通じた地域ブランドとファミリー企業との関わりについて考えていきたいと思います。

 

 

<参考文献>
石井淳蔵・栗木契・嶋口充輝・余田拓郎(2004)『ゼミナール マーケティング入門』日本経済新聞社.

Kotler, P. and Keller, K. L. (2007) “A FRAMEWORK FOR MARKETING ANAGEMENT, 3rd Edition”, Prentice-Hall. (恩藏直人監訳・月谷真紀訳『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント基本編(第3版)』ヒアソン・エデュケーション, 2008).

落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.
 

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

「相続・事業承継」この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます

「事業承継」この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます

連載円滑な世代交代を実現――事業承継の要諦

日本経済大学 経営学部 准教授 名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科 客員教授

1973年神戸市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。経営学者。
大和証券(株)入社後、本社人事部、大和証券SMBC (株)金融法人部をへて、2014年より日本経済大学経営学部(東京渋谷キャンパス)准教授就任。ファミリービジネス学会理事。
現在、ファミリー企業の事業承継について経営学の観点から研究を行う。大学での研究活動を軸に、ビジネススクールにおけるケースメソッド形式による事業承継講座を担当するほか、企業の事業承継に関する助言指導や実務家向けセミナーの講師などを務める。2015年末に日本で初めてとなる同族経営の実証研究書となる『ファミリービジネス白書』を同友館から発刊。同書の初代企画編集委員長を務める。

著者紹介

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

【2017年度 ファミリービジネス学会賞受賞】 【2017年度 実践経営学会・名東賞受賞】 日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧