アパート建替えに伴う立退要請・・・立退料を決める要素とは?

今回は、貸主がテナントに立退要請をする場合の立退料の算定において、テナント側の事情がどのように考慮・反映されるのかを具体的に見ていきます。

借主側の「利用の必要性」も慎重かつ緻密に分析

今回は、「借主が土地又は建物の使用を必要とする事情」(以下「使用の必要性〈借主〉」といいます)について説明します。

 

使用の必要性(借主)は、前回ご説明した使用の必要性(貸主)と同じく、借地借家法の条文上、正当事由を判断するにあたって、主として考慮される要素となります。そのため、使用の必要性(借主)についても、慎重かつ緻密な分析を事前に行うことが求められます。

立退料の算定で考慮すべき部分は「使用目的」で異なる

なお、使用の必要性(借主)を判断する際には、当該土地又は建物を、①居住のために使用しているのか、②事業のために使用しているのかで、考慮される要素が異なってきます。そのため、場合を分けて検討します。

 

①居住のために使用している場合

 

まず、居住のために使用している場合について検討しますと、当該場所で実際に居住し、生活の中心となっている場所から移転を求める場合には、借主の収入、年齢、健康状態、居住期間などを考慮して使用の必要性があるか否かが考慮されています。なお、家に愛着や思い出があるといった主観的な事情は、裁判所ではあまり重要視されていません。

 

生活の本拠を変更するということは、感覚としては大変なことのように思われますが、昔と違って現在は空室率が高まっており(2016年8月において、全国で約11.6%、東京都23区で約11.4%、埼玉県では、約17.3%とのデータもあります)、当該居住場所の近隣に家を新たに借りることは、決して難しい状況ではなくなってきています。

 

そのため、裁判所においては、高齢であるとか、極めて重い病気に罹患しているといった特段の事情がない限り、使用の必要性自体は認めるものの、それが切迫・重大なものとまで判断される例はそれほど多くありません。

 

また、生活の一部にしか使用していない場合(例えば、別に起居生活する場があり、当該場所は、洗濯機等の日用品置場や車庫代わりに使用していただけの場合には、一応の使用の必要性は認めていますが、必要性の程度は低く見られています(東京地裁平成23年8月10日判決)。

 

②事業のために使用している場合

 

次に、事業のために使用している場合について検討しますと、当該場所で営んでいる事業の性質や、当該場所の環境などから代替物件に移転することが容易であるか否かが重視されています。

 

具体的には、弁護士や税理士などの士業が営む事務所においては、当該士業を営む者の個人的な信用が大事なのであって、あまり場所は重要視されない場合が多く、また、最近は近隣で同種同等の物件を探すことが容易になっていることから、使用の必要性は高いとまでは言えないと判断される傾向にあります。また、事務所(オフィス・ワークを行う場所)なども一般的には場所は重視されないことが多いので、同じような判断がされる傾向にあります。

 

他方で、物販や飲食店などの店舗等は、一般的には、場所がかなり重要な要素になってきます。路面店(1階店舗)であるか否か、多数の人が働いているオフィスビルの近くか否かといった要素は売上げに直結してきます。したがって、使用の必要性は事務所などに比べて高いと判断される傾向にはあります。

 

しかしながら、やはり最近は近隣で同種同等の物件を探すことが容易になってきていることから、特別な事例、例えば、駅から著しく近い物件で同種同等の物件は見つからない状況、現状の賃料が著しく低いため移転した場合の同種同等物件の賃料では経営を継続できないことが見込まれる場合、有名地域のメインストリートの1階路面店で、著しく多数の人が行き来し、広告塔としての機能も有している場所にある場合など、といった事例でない限りは、使用の必要性が著しく高いとまでは判断されない傾向にあります。

 

以上を踏まえますと、アパートの取り壊し再開発を検討するにあたっては、居住者の使用状況や、同種同等の物件があるか否かといった事情を事前にしっかりと把握しておき、代替物件に移転することが困難な事情が存在する借主がいるのかどうかを事前に検討しておく必要があります。

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

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連載立退料、建替え…賃貸アパートオーナーのための「物件の取り壊し」にまつわる基礎知識

日本橋中央法律事務所 弁護士

2005年弁護士登録、東京弁護士会所属。2005年から2011年に片岡総合法律事務所、2011年から2016年に野田総合法律事務所(パートナー弁護士)を経て、2016年に日本橋中央法律事務所を開設して現在に至る。特に、金融に関わる法務、不動産に関わる法務及び信託に関わる法務を得意にしている。

著者紹介

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