前回に引き続き、家族信託を有効活用した事例を見ていきます。今回は、家族信託を利用して収益不動産を管理したケースを紹介します。

家族信託で親の代わりに収益不動産を管理

前回に引き続き、家族信託を活用した事例を見ていきます。3つ目は、収益不動産などの管理についてです。

 

これもまた、親が動けない状態になった時に効果を発揮します。以前に、築20年を超える賃貸マンションを相続した方がいました。それは、夫から一次相続で母が相続したものです。夫が亡くなってからも、母は自分で管理をしながら収益を上げていきたいという希望があったため、子どもたちも納得し、そのような状況になったのです。


母も若いうちはまだ問題なくそのマンションの管理を行えたのですが、年月が経ち、母が高齢になってからは、動くのもままならない状態です。不動産管理会社や清掃会社と契約していたとしても、オーナーが全く動かずにいていいほど賃貸マンション経営は甘くはありません。しかも、築20年を超え、少しずつですが、部屋に空きができるようになってきました。さすがにこのままではいけないと、管理会社からも「大規模修繕したほうがいいのでは?」という提案が来ています。


母は大規模修繕にあたり、一度マンションの状況を自分の目で確認しにいきたいと思っていましたが、やはり体が思うように動かず、その日取りもずっと後回しになっていました。そこで、それを見かねた長男が、もう母に無理をしてほしくないということもあり、自分が代わりにやってもいいと伝えました。大規模修繕ともなると、費用も高額になり、銀行融資などの手続きも必要になってくるので、そうすべきだと考えていたのです。


そこで母と長男は家族信託契約を結びました。委託者は母で、受託者は長男です。長男が代わりに管理するようになってからは、修繕の話はスムーズに進むようになりました。不動産管理会社との話し合い、銀行融資の手続き、住民へのお知らせ等も滞りなく進みます。母には認知症の疑いも出てきていたので、長男が代わってやることで問題なく進んだことに、周辺の人々も安心していました。

事業承継の面で役立つ側面もある家族信託

その後も引き続き管理を任された長男ですが、そこで得た収益は信託配当として委託者であり受益者の母のものとなります。長男は自分のお金にこそなりませんが、どの程度の収益が出るかがわかったので、母にどのくらいの所得があるか、そしてその所得をどうすればよいかなど相続のことまで考えるようになりました。


不動産の管理をしてみて、興味を持った長男は自分がそれを引き継ぎたいと考えるようになったので、他の兄弟には何か別の資産を渡すことも考え始めます。そして、その後長男から母に相談を持ちかけて、生前対策を進めるようになりました。


この収益不動産のように、一つのビジネスを行っているような場合、家族信託が活きてきます。自分よりも若く頭が回る人に賃貸経営を行ってもらうことで、ビジネスとして進めやすくなり、今後の後継者選定の参考にもなります。子どもが代わりに管理した結果、やはり向いていなかったということでも構いません。その場合は、別の子どもの適性を見たり、収益不動産を売ったりなどの選択肢を検討すればいいのです。


このように、家族信託は、事業承継を考える上で役に立つという側面もあることを覚えておいてください。

本連載は、2013年8月2日刊行の書籍『相続財産を3代先まで残す方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続財産を3代先まで残す方法

相続財産を3代先まで残す方法

廣田 龍介

幻冬舎メディアコンサルティング

高齢化による老々相続、各々の権利主張、そして重い税負担…。 現代の相続には様々な問題が横たわり、その中で、骨肉の争いで泥沼にハマっていく一族もあれば、全員で一致団結して知恵を出し合い、先祖代々の資産を守っていく…

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