前回は、遺言書作成の前段階として行いたい「家族会議」について説明しました。今回は、相続発生後に残される「配偶者」に対して配慮すべき点などを見ていきます。

遺産配分によっては残った配偶者の立場が弱くなる!?

家族の事情や希望などを踏まえながら、遺言書の作成を進めていくとお伝えしてきましたが、意外と盲点となるのが配偶者の存在です。相続というと、どうしても子どもに財産を引き継ぐイメージが強いからかもしれません。

 

遺言書によって、子どもに多くの財産を相続したのはいいものの、その後、配偶者の立場が弱くなってしまうことがあるのです。

 

例えば、父の遺言書によって自宅を相続した子どもが、自分の家だからと母に介護施設へ入居することを強制したり、無理やり立ち退かせたりすることもあります。また、財産の大半を子どもに相続したために、配偶者の生活費がなくなってしまうケースもあります。そういった場合、配偶者は何かとお金が必要になる度に、子どもにお金を無心しなければいけなくなるなど、不必要な軋轢が生じる危険性があります。

 

他にも、親が希望している介護施設があっても、自身に財産がないと自らそれを決められないので、子どもに相談しなければなりません。もし子どもが、もっと別の、金額が安い介護施設に行かせたいと言い出したら、親の希望はかなわなくなることもあります。

 

要するに、遺言書を書くにあたり、配偶者の住む場所と、生活費と、将来の支援(介護)を考えることは必須なのです。

一次相続と二次相続のバランスを取った対策が必要

実際にどうすればいいかというと、自宅をひとまず配偶者に相続させたり、子どもが自宅を相続するならその子どもが配偶者の面倒を見ることを条件にさせたりといったことを考えます。また、残された配偶者が亡くなるまでに必要となる生活費は、収益性のある不動産を相続させることで賄うといったことも考えられます。そういった配慮ができれば、配偶者である親は安心して老後の生活を送れます。

 

ただ、ここで節税の目線を加えると、配偶者への相続を考えるからといって、配偶者に財産を多く残してしまうのは避けてほしいと思います。

 

配偶者は一次相続で1億6000万円か法定相続分までは無税となる控除があります。額としても大きいですし、ややこしい相続対策を後回しにできるのですから、頼る方が多いのもわかります。実際、税理士の立場からしても、税金を極力抑えられるので、使いやすいものです。

 

しかし、一次相続で配偶者が多くの財産を相続すると、二次相続での子どもへの課税が高額になるので、そのバランスを考える必要があります。ここまでくると、相続は一次相続と二次相続を通して考える、という相続対策の原則の意味が見えてきます。

 

特に最高税率が課税されるような資産をお持ちの方の場合、一次相続のうちから対策を打たないと二次相続で打つ手がなくなり、節税が間に合わなくなってしまいます。

 

このような資産家には、「一次と二次を合わせるといくつかの有効な相続パターンがあります。相続税はそれぞれいくらとなります」などと始めに提案します。配偶者に固有の財産がある場合は、二次相続を考えて配偶者の特別控除枠を全部使わず、3〜4割にとどめておいたほうがいい場合もあるのです。

 

また、小規模宅地等の特例を配偶者が使うより、元気なうちに二世帯住宅を建設して、子どもが使ったほうが有利な場合も多くあります。ちなみに、二世帯住宅を考えるならば、自身が元気なうちに始めるのが肝心です。相続後の同居というのはありがちな話ではありますが、それも元気なうちに話し合って決めたのと、どちらかが亡くなってから仕方なく決めたのとでは、家族の関係性にも大きな差が出ることでしょう。さらに病気になってからの同居では親も子も心情的なものが全く異なります。

 

やり方や考え方はご家庭によって違いますが、配偶者への配慮を考えていくうちに、二次相続のことも計算に入れた相続というものが視野に入ってくるので、より円満な相続が期待できるようになっていきます。

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    本連載は、2013年8月2日刊行の書籍『相続財産を3代先まで残す方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    廣田 龍介

    幻冬舎メディアコンサルティング

    高齢化による老々相続、各々の権利主張、そして重い税負担…。 現代の相続には様々な問題が横たわり、その中で、骨肉の争いで泥沼にハマっていく一族もあれば、全員で一致団結して知恵を出し合い、先祖代々の資産を守っていく…

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