ハワイに移住した父・・・相続手続きはどの国の法律に準拠する?

今回は、ハワイに移住した父親に万一のことがあった場合、相続の手続きは日本とハワイのどちらの法律に準拠すべきなのか、また、このようなケースにおける遺言書の作成方法等を見ていきます。

もし父が移住先のハワイで亡くなったら…?

 質 問 

 

私は、2004年12月まで、父母と妹の4人で東京の自宅に住んでいました。ところが、2005年1月に母が亡くなり、父は、「どうせ一人暮らしをするなら、ハワイに移住したい」と言い出して、2006年1月から現在に至るまでハワイに住んでいます。ただ、父は心臓の病を患っているため、父に万が一のことがあったら、相続はどうなるのだろうと心配です。

 

そこで、次の2点について教えて下さい。

 

①私を含めて家族全員が日本人で、父が持っている高額な財産は、日本にある自宅の土地・建物だけです。このような場合でも、父がハワイ州で亡くなってしまった場合、相続手続きはハワイ州の法律に従って行わなければならないのでしょうか?

 

②また、父が遺言書を作成する場合は、ハワイ州法の方式で遺言書を作成しなければならないのでしょうか?

 

 回 答 

 

【質問①について】

国際相続においては、原則として亡くなった方(被相続人)の国籍地の法律が準拠法となるため、お父さんの国籍地である日本の相続法が準拠法となります。

 

【質問②について】

遺言書については、日本法・ハワイ州法のどちらの方式で作成しても有効ですが、日本の不動産について相続登記をする際の手間等を考えると、日本法の方式に準拠した公正証書遺言の作成をお勧めします。

通則法36条 「相続は、被相続人の本国法による。」

 解 説 

 

1.国際私法・国際相続について

 

(1) 国際私法とは

 

グローバル化が進んだ現代社会においては、国境を越えた取引や相続といったことも珍しくありません。例えば、東京に住む日本人と、ハワイ州ホノルル市に住むアメリカ人が、インターネット上で売買契約を締結するといった場合、日本法とハワイ州法のどちらが準拠法となるかは大きな問題です。

 

このような国際的な私法関係を規律する法律を「国際私法」といい、日本では主に「法の適用に関する通則法」(以下「通則法」とします)が、国際私法を規律しています。ちなみに、通則法7条は、当事者が契約当時に選択した準拠法によると規定しており、上記売買契約においては、当事者が準拠法を選択することができます。

 

(2)国際相続の準拠法

 

それでは、被相続人が海外に在住しているような国際相続の場合、どのように準拠法が決定されるのでしょうか。

 

通則法36条は「相続は、被相続人の本国法による。」と規定しています。ここでいう「本国法」とは、相続発生当時の被相続人の国籍地の法律のことです。通則法は、国際相続について、36条で「相続」全体について規定し、37条で「遺言の成立と効力」について規定しています。

 

36条の「相続」には、相続分・遺留分、相続人の範囲、遺産分割の時期・方法等が含まれます。ただし、①不法行為による損害賠償請求権が相続されるか否か、といった個々の財産権の準拠法も問題となるようなケースや、②日本で行った遺産分割協議を外国で実行できるか否か、といった実務上の問題が発生するケース等もあります。国際相続は単純に本国法のみで規律される場合だけではありませんので、国際私法にも精通した専門家のアドバイスが必要です。

 

2.質問①、②に関する検討

 

(1)質問①について

 

万が一、お父さんがハワイ州で亡くなったとしても、お父さんの国籍は日本ですから、ハワイ州法が準拠法となることは原則としてありません。前述の通り、通則法36条が適用され、日本の相続法である民法が適用されることになります。

 

日本の民法によれば、お父さんの法定相続人は、その子供である相談者と妹さんの2人となり(民法887条1項)、それぞれの法定相続分は2分の1ずつになります(同900条4号)。その結果、万が一、お父さんが遺言を作成せずに亡くなった場合、日本にある自宅の土地建物は、相談者と妹さんが2分の1ずつ共有することになります(同898条)。

 

(2)質問②について

 

それでは、お父さんが、自宅の土地建物を相談者に単独で相続させたいと考えている場合はどうでしょうか?

 

このような場合、お父さんは、相談者に自宅の土地建物を単独で相続させる旨の遺言書を作成しておく必要がありますが、その遺言書を、日本法の方式・ハワイ州法の方式、いずれの方式に従って遺言書を作成すべきかが問題となります。

 

通則法37条1項は、「遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による」と規定していますが、通則法43条2項は、遺言の方式については通則法を適用しない、と規定しています。

 

それでは遺言の方式にはどの法律が適用されるのか?結論としては、通則法に代わり「遺言の方式の準拠法に関する法律」が適用されます。この法律は、できる限り遺言が有効となるように保護する「遺言保護」という国際的な考え方に基づいており、同法によって、下記のいずれかに当たる場合は、どの場合でも遺言の方式として有効とされています(同2条)。

 

①    行為地法(1号)

②    遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法(2号)

③    遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法(3号)

④    遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法(4号)

⑤    不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法(5号)

 

したがって、本件においては、日本法の方式に則って遺言を作成したとしても有効ですし(同2条2号、5号)、ハワイ州の方式に則って遺言を作成したとしても有効です(同2条1号、3号、4号)。

 

もっとも、ハワイ州の方式で遺言を作成した場合、その遺言書の検認、日本の法務局での相続登記など、その都度日本語訳を添付しなければならず、通常の場合よりも手続きに時間がかかることも予想されます。

 

そこで、ハワイ在住であっても、日本法方式の公正証書遺言を作成することをお勧めします。もっとも確実なのは、日本に帰国した際に公証役場で公正証書遺言を作成しておくことです。なお、日本に帰国できない場合であっても、現地の日本国総領事館で公正証書遺言を作成することもできます。ただし、領事館での公正証書遺言作成は、日本の公証役場に比べて時間がかかる場合がありますのでご注意下さい。

 

さらに、公正証書遺言を作成することもできない場合であっても、日本法の方式に従って自筆証書遺言(全文、日付、氏名を自筆し、捺印する必要があります)を作成するという方法もあります。

 

もっとも、自筆証書遺言は簡便な方法ですが、要式を満たさない場合に無効となるリスクがありますし、相続発生後に相続人が日本の家庭裁判所で遺言書を検認する必要があります。また、万が一、ハワイ州の裁判所で遺言書の検認手続きしてしまうと、日本の家庭裁判所でその遺言書の検認ができなくなる場合もあるため、くれぐれもご注意下さい。

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

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連載国際税務専門の異色弁護士による「国際相続&税務」の最新事情

アカマイ法律事務所 代表弁護士

1978年兵庫県神戸市生まれ。灘高校、早稲田大学法学部、中央大学ロースクールを卒業。ちば松戸法律事務所、IN CONTROL LEGAL SUPPORT SERVICES、税理士法人山田&パートナーズ、弁護士法人Y&P法律事務所を経て、2016年9月にアカマイ法律事務所を設立。東京弁護士会遺言信託部・不動産法部に所属し、一般社団法人ジャパン・タックス・インスティチュート「文化インフラ構築と税制」研究会では事務局を担当。著作として「国際相続の税務・手続 Q&A 第2版」(中央経済社、共著)がある。現在は、相続・事業承継のほか、M&A・労務・知的財産権などの企業法務、国際案件等に取り組んでいる。

著者紹介

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