悩ましい日本語⑥ あぶらげ 【油揚】 〔名〕

今回は、「あぶらげ【油揚】」を解説します。※本連載は、元小学館辞典編集部編集長で、辞書編集者として多数の辞書作りに携わってきた神永曉氏の著書、『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、変化し続ける「ことばの深さ」をお伝えします。

江戸中期頃、あぶらあげは「あぶらげ」へと変化

あぶらげ【油揚】〔名〕

 

「あぶらあげ」から変化するのは江戸中期

 

「栃尾のあぶらげ」というのをご存じだろうか。

 

栃尾とは新潟県長岡市の地名だが、ここの「あぶらげ」は通常のものよりも大きく、長さは20センチほど、厚さも3センチもある。生揚げ(厚揚げ)と見紛うほどの「あぶらげ」である。だが、味や風味は紛れもなく「あぶらげ」で、中に納豆やネギ味噌を挟んで焼いて食べることが多いのだが、私はただ焼いたものに刻みネギとおろし生姜を乗せ醤油(しょうゆ)をかけるシンプルな食べ方が好きである。

 

と、日本語とはまったく関係のない食べ物の話で始めてしまったのだが、「栃尾のあぶらげ」は「あぶらあげ」ではなく「あぶらげ」と呼ばれていることに注目してほしかったのである。

 

「あぶらげ」は漢字で書くと「油揚」。今でこそ薄く切った豆腐を油で揚げたものを言うが、元来は野菜、魚肉などを油で揚げたものの総称である。そしてそもそもの呼び方は「あぶらあげ」である。豆腐の「あぶらあげ」が生まれたのは江戸時代になってからで、『日本国語大辞典』によれば「あぶらあげ」が「あぶらげ」に変化するのは江戸中期頃と思われる。

母音の連続を嫌って生まれた言葉

「あぶらあげ」の発音はaburaageだが、この中のaという母音が連続するのを嫌ってaburageという形を生み出したものと考えられる。

 

連続する母音の一方が脱落するのは、話しことばに多く見られ、たとえば「たいいく(体育)」taiikuのiが脱落して、「たいく」と言ってしまうのもそれである。

 

「あぶらげ」はほとんど市民権を得ていると言ってよく、国語辞典でも「あぶらあげ」「あぶらげ」ともに見出し語にしている。NHKのアクセント辞典も「アブラアゲ」とともに「アブラゲ」のアクセントも載せているので、アナウンサーが「あぶらげ」と言うこともあるのであろう。

 

ただし新聞は、「油揚げ」という表記を示しているだけである(時事通信社『最新用字用語ブック』など)。新聞の場合は声に出して読まれることは想定していないからなのだろうが、意識としては「あぶらあげ」「あぶらげ」どちらなのだろうかと、つい余計なことを考えてしまう。

 

□揺れる読み方

 

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連載日本語の不思議~『さらに悩ましい国語辞典』より

辞書編集者
元小学館辞典編集部編集長

1956年、千葉県生まれ。小学館に入社後、37年間ほぼ辞書編集一筋の編集者人生を送る。
担当した主な辞典は『日本国語大辞典 第二版』『現代国語例解辞典』『使い方のわかる類語例解辞典』『標準語引き日本方言辞典』『例解学習国語辞典』『日本語便利辞典』『美しい日本語の辞典』など多数。著書として『悩ましい国語辞典』(時事通信社)。
NPO法人「こども・ことば研究所」を共同設立し、「辞書引き学習」を中心とした活動で全国行脚している。

著者紹介

さらに悩ましい国語辞典

さらに悩ましい国語辞典

神永 曉

時事通信出版局

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