今回は、前回に引き続き、労務判例から「残業時間の証拠を示すもの」について見ていきます。※本連載は、堀下社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の堀下和紀氏、穴井りゅうじ社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の穴井隆二氏、ブレイス法律事務所所長で弁護士の渡邊直貴氏、神戸三田法律事務所所長で弁護士の兵頭尚氏の共著、『労務管理は負け裁判に学べ!』(労働新聞社)より一部を抜粋し、会社側が負けた労働判例をもとに労務管理のポイントを見ていきます。

時間外労働の算定資料になり得る「手書きの出退勤表」

【判例分析表】

 

●事件名

オフィステン事件(大阪地判平19.11.29 労判956・16)

 

証拠
ワーキングフォーム(出退勤表)


証拠の評価

ワーキングフォームは、従業員毎にクリアブックに収納され、記入前の用紙とともに、1つのファイルに綴じ込まれていた。ファイルは、被告事務所に設置されており、学生アルバイトは、ファイルに綴じられたクリアブックから自分のワーキングフォームを取り出し、出社時刻と退社時刻を記入していた。原告のワーキングフォームの記載は、その作成経緯から考えても、また、他の証拠との関係から見ても、その記載をそのまま採用することはできないが、全くのでたらめということはできず、一応、原告の記憶に基づき記載されているもので、時間外労働の算定の資料とすることは可能といえる

従業員が記録したメモが労働時間の認定となるケースも

●事件名

オオシマネットほか事件( 和歌山地田辺支判平21.7.17 労判991・29)

 

証拠Ⅰ

従業員が記録したメモ1

 

証拠Ⅰの評価

平成16年12月以降について原告らが自ら作成していた始業終業時刻を記載した「メモ1」につき、日報の作業数量と一致しており、ユニオンの助言によって日ごとに作成したものであって、殊更虚偽の記載をしたというような、信用性に疑いを差し挟むべき特段の事情は窺われないから、メモ記載どおりの労働時間の認定をすることができる

 

証拠Ⅱ

従業員が記録したメモ2

 

証拠Ⅱの評価

平成16 年12 月以前の期間に関して記載された「メモ2」は、原告らが係争に向け事後的に経験や記憶を頼りに作成したもので、主観的な記載であるから慎重な検討を要する。メモ2は、原告らが数量メモの記載を基に労働時間を誠実に判断して記載したものという限度で、その推認力を認められる

 

証拠Ⅲ

会社の「基本目標数」や「工程分析表」

 

証拠Ⅲの評価
実際の労働時間を前提としていないから採用できない

 

●事件名

NTT西日本ほか(全社員販売等)事件( 大阪地判平22.4.23 労判1009・31)

 

証拠

従業員が記録したノート

 

証拠の評価

原告がノートに、全社員販売やWEB学習に要した時間として記載した部分は、信用できる。そして、これらに要した時間は労働時間である

労務管理は負け裁判に学べ!

労務管理は負け裁判に学べ!

堀下 和紀,穴井 隆二,渡邉 直貴,兵頭 尚

労働新聞社

なぜ負けたのか? どうすれば勝てたのか? 「負けに不思議の負けなし」をコンセプトに、企業が負けた22の裁判例を弁護士が事実関係等を詳細に分析、社労士が敗因をフォローするための労務管理のポイントを分かりやすく解説…

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