今回は、アパートオーナーがテナントに立退要請できるケースと、できないケースについて見ていきます。

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「貸主が土地又は建物の使用を必要とする事情」とは?

今回は、「貸主が土地又は建物の使用を必要とする事情」(以下「使用の必要性(貸主)」といいます)について説明します。

 

使用の必要性(貸主)は、借地借家法の条文上、正当事由を判断するにあたって、主として考慮される要素となりますので、慎重かつ緻密な分析を事前に行うことが求められます。

 

使用の必要性(貸主)が認められる事例は、(a)建物を建て替えて所有者が自ら使用するという事例が典型例ですが、(b)敷地を有効利用するために、現在ある収益建物を建て替えてより経済性機能性の高い収益建物にする事例も、近時の裁判例においては、一定の条件付きで認められているほか、(c)「地主が土地を売却しなければならないという事情も、評価は低くなりますが、これに準じて扱うことはできる」(『一問一答 新しい借地借家法』49頁)と説明されています。

 

収益アパートの建て替えの際に問題となるのは、上記(b)の敷地の有効利用の事例となりますが、近時の裁判例を分析しますと、使用の必要性(貸主)については、

 

 

①具体性がないもの

例えば、建築計画が極めて簡易な手書きの各階平面図で、計画の概要をごく簡潔に示すものにすぎない場合や、建替後の予定建物の内容が暫定的な見積もりにすぎない場合、建て替える予定があると主張するだけで具体的な計画が示されない場合など

 

②建替計画に要する資金の裏付けを欠いたもの

例えば、所有者が税を滞納する状態にあるから、立退料を支払った上でビルを建て替えるだけの資力があるとは認められない場合など

 

③裁判が始まってから建替計画を作成して提出した場合

 

などについては、差し迫った使用の必要性(貸主)が認められないなどと判断されている例が多いように思われます。なお、③については、結局のところ、裁判官に、裁判のためだけに作成された計画ではないか、という疑いを持たれてしまうからだと思われます。

 

また、近時の裁判例の中には、使用の必要性(貸主)を明確に主張せずに、耐震性や老朽化のみを正当事由の要素として主張する事例が見られますし、筆者もそのような事例に接したことが何度かあります。

 

おそらく、敷地の有効利用は、所有者の経済的かつ一方的な事情であるため、正当事由の要素にはならないのではないか、立退料が高額化するのではないか、という先入観がある反面、耐震性や老朽化は、生命身体の安全に関わってくるように見えますので、こちらのほうが正当事由の要素として考慮されやすいように見えるからだと推測しています。

「敷地の有効利用」は正当事由の要素にはなるが…

しかし、これまで述べてきたとおり、当該土地にある収益建物を建て替えてより収益性の高い建物にすること、いわゆる「敷地の有効利用」は、きちんと主張すれば、正当事由の要素となります。他方で、前回までで述べたとおり、耐震性や老朽化のみで正当事由が認められるケースはほとんどありませんから、敷地の有効利用は、必ず緻密に検討した上で、主張しなければ裁判になった場合には、敗訴してしまう可能性が高くなってしまいます。ですから、敷地の有効利用について、具体的かつ緻密に計画を立てて、十分な計画が立てられないケースでは、建替えを行うことは慎重になるべきです。

 

では、どのようにして計画を立てればよいのでしょうか。

 

まず、新しい建物を建築してくれる工務店などを選定する必要があります。工務店には、通常、建築士が所属していますから、容積率、建ぺい率などを調べてくれた上で、建築図面の作成や、建築費用(取り壊し費用を含む)の見積もりを作ってもらえます。それと同時に、近隣相場などを踏まえた上で、一室いくらで賃貸できるのか、想定される入居率などを予想した上で、建て替えに係る収支を計算します。この想定賃料や想定入居率の相談は、不動産会社に相談する場合が多いです。不動産会社に相談すれば、工務店もあわせて紹介してくれることもあります。

 

その収支計画が固まったら、資金計画を立てます(取引先の銀行があるならば、そこに相談してみてもよいと思います)。これに想定される立退料の支払いを加算しますと、概ねの事業計画ができあがることになります。

 

なお、具体的な内容については、次回以降に見ていくことにしましょう。

 

 

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    本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

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