交通事故の後遺障害認定をめぐる関係機関の駆け引き

前回は、診断があるにも関わらず「後遺障害認定」がされなかった事例を紹介しました。今回は、交通事故の後遺障害認定をめぐる関係機関の駆け引きを見ていきます。

最後の砦は財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構

前回の続きです。

 

このように、医師の診断がいかなるものであっても、客観的かつ決定的な証拠がなければ頑として認めないというのが自賠責保険の後遺症認定の実態なのである。この場合は右足首の可動域が実際に制限されていて、神経症状ではなく機能障害として扱うかどうかということが大きなポイントであるが、器質的損傷と画像所見に徹底的にこだわり、主治医の意見さえも認めないという、等級認定の頑なな態度が浮き彫りになった形であった。

 

結局再度の審査請求においても望んだ等級は認められなかったわけだが、それでも承服できない時はどうすればいいか? 裁判という手もあるが、その前の最後の手段として財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構という機関に紛争処理申請を行い、再度審査を請求することができる。この機関は自賠責保険に関する様々な紛争を公正かつ的確に(と自ら称しているが)解決するために設けられた中立の第三者機関であり学識経験者や専門家によって構成されている。

 

我々は承服しがたい認定結果であったので、同機構に紛争処理申請を行った。何としても右足関節の機能障害を認めてもらい最低12級は確保したい。自動車整備工として働いている被害者は常時右足を固定した状態で整備作業を余儀なくされていて、到底14級では補償しきれない損害を負っていることは明らかであるからだ。

利害が絡み、一筋縄ではいかない等級認定

さて、その紛争処理機構の出した答えは意外なものであった。結論からいうと12級が認められたのであるが、それはこちらが考えていた右足関節に関してではなく、腰痛の方であった。Dさんはもともと椎間板が変形していたり腰椎が変性していたりといういわゆる交通事故とは直接関連のない所見が見られたが、同機構によれば交通事故による受傷が誘因となり、それらが腰部の様々な症状につながっているとして12級としたのだ。

 

ただし、10級を目指していた右足関節の可動域制限に関しては、決定的な画像所見などによる器質的損傷が見られず、医学的原因を特定することができないとして機能障害ではなく14級の神経症状とするにとどまった。機能障害とするにはより確固とした所見、医学的根拠が必要であるという見解で、神経症状と機能障害の間に厳然とした区別をつけたいとする機構側の意図が垣間見えた。いってみれば腰部の12級認定はそれらの思惑の中での一つの落としどころであったと考えられる。

 

かように等級認定に関してはそれぞれの思惑と利害の中で、様々な駆け引きがあり到底一筋縄ではいかないものである。我々弁護士でさえなかなか予測がつかないやり取りであるから、多くの一般の被害者が彼らと対等にやり取りすることはまず不可能であるといっていい。そこには幾重もの壁が存在し、ほとんどの被害者が結局保険会社や機構にいわれるがまま、納得しかねる等級であっても甘んじて受けているのが実情だといっても過言ではない。

本連載は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載ブラック・トライアングル~交通事故補償の知られざる実態

弁護士法人サリュ 前代表/弁護士

昭和40年、大阪市生まれ。府立天王寺高校、京都大学法学部卒業。平成9年、大阪で弁護士登録。当時問題となっていた弁護士偏在解決の先駆けとして、同10年より弁護士過疎地であった山口県萩市に赴任、独立開業。同16年、弁護士法人サリュ設立。同27年現在、法律事務所を全国7カ所に構え、大阪にて執務する。平成20年より同志社大学法科大学院講師。

著者紹介

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

谷 清司

幻冬舎メディアコンサルティング

現代に生きる私たちは交通事故にいつ巻き込まれるかわからない。実際日本では1年間に100万人近くの人が被害者であれ加害者であれ交通事故の当事者になっている。そのような身近な問題であるにもかかわらず、我が国の交通事故補…

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