得られるべき補償が得られない…交通事故補償制度の実態

前回は、客観的な裏付けが難しい「ムチ打ち症」という後遺障害の問題を紹介しました。今回は、得られるべき補償が得られない、交通事故補償制度の実態を見ていきます。

年間約130万件の調査を行う「損害保険料率算出機構」

前回の続きです。

 

確かにムチ打ち症と呼ばれるものの多くは数カ月の治療で改善することも事実である。そしてなかには精神的な抑うつ状態から、症状がさらに重く長引く場合もあるかもしれない。ただし、だからといってそのような被害者を詐病の疑いがあるとか、あるいは症状改善へ向けての積極的な姿勢が見られないなどといって、あたかも被害者側に非があるように断じることは避けるべきだと考える。

 

被害者にとってみれば交通事故は突然の予期しないトラブルであり、災い以外の何物でもない。事故によるショックはもちろんだが、事故後の様々な状況や環境の変化、手続きややり取りの煩雑さ、そして何より身体的なダメージとそこから来る不安やおそれ・・・。

 

とにかく日常では想像しえなかった様々なストレスを一気に受けるわけである。平常な精神状態を保てという方が無理がある。交通事故に関する医療も補償体制も、かかる交通事故被害者の特性を十分に考慮したうえで適切な対応をとることが望まれるのである。

 

さて、そのような観点から再び後遺障害認定の現場を振り返ってみよう。損害保険料率算出機構では年間で約130万件以上(平成25年度)もの等級認定に関する調査を行っている。これだけの数の依頼を処理しなければならないため、一つの事案にかけられる時間も労力も自ずと限界があるだろう。

「頑な」な等級認定が被害者にさらなる実害を…

同機構のモットーに「公平、迅速、親切」というものがある。とりあえず彼らが「親切」であるかどうかは本書を読み進めれば自ずと判断していただけるだろう。他の2つ、公平、迅速は交通事故補償の性質上最も望まれるところである。14級と12級の認定に関しても彼らはこの公平、迅速の原則を振りかざす。ムチ打ち症のような定義も病態もあいまいなものであればこそ、器質的損傷と画像所見があり、事故との関連性が医学的に証明できるものを12級、そうでないものは14級と機械的に振り分ける。

 

確かにある意味公平性を期すのであれば一切例外を認めず、要件を満たさないものはすべて14級、あるいは等級外にしてしまう方が手っ取り早い。しかし再三指摘するとおり、なかには日常生活に大きな影響が出るような難治性のものも少なくないのである。前回の記事で取り上げた土屋弘吉らの見解ですら、3カ月以内で治癒するのは80%以上としていて、100%と言いきってはいない。

 

原理原則だけに則った頑なな等級認定は、交通事故で様々な苦痛を受けている被害者にとってあまりに血の通わない冷たい対応であるばかりか、得られるべき補償を得られないという実害をもたらす可能性が高いといえるだろう。

本連載は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載ブラック・トライアングル~交通事故補償の知られざる実態

弁護士法人サリュ 前代表/弁護士

昭和40年、大阪市生まれ。府立天王寺高校、京都大学法学部卒業。平成9年、大阪で弁護士登録。当時問題となっていた弁護士偏在解決の先駆けとして、同10年より弁護士過疎地であった山口県萩市に赴任、独立開業。同16年、弁護士法人サリュ設立。同27年現在、法律事務所を全国7カ所に構え、大阪にて執務する。平成20年より同志社大学法科大学院講師。

著者紹介

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

谷 清司

幻冬舎メディアコンサルティング

現代に生きる私たちは交通事故にいつ巻き込まれるかわからない。実際日本では1年間に100万人近くの人が被害者であれ加害者であれ交通事故の当事者になっている。そのような身近な問題であるにもかかわらず、我が国の交通事故補…

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