前回は、企業家活動の継承で重要となる「事業ドメイン」の設定ついて取り上げました。今回は、差別化戦略からファミリービジネスの事業承継について考察します。

「市場・製品サービス・事業のしくみ」の視点から考える

差別化(差異化)戦略とは、競争戦略における基本戦略の一つです。

 

基本戦略とは、その他コストリーダーシップ戦略と集中化戦略を含め、三つの戦略から構成されています。差別化戦略とは、競合他社との企業行動上の違いを出すことであり、自社の企業行動上の独自性を示すものであるといえるでしょう。

 

差別化戦略においては、市場、製品サービス、事業のしくみの三つの視点から考えると理解しやすいでしょう。

 

第一に、市場の視点とは、自社が市場においてどのセグメント(市場を細分化した単位)を対象にするかという見方のことです。例えば、全セグメントを対象とするのか、特定のセグメントを対象とするのかと理解するとわかりやすいでしょう。

 

第二に、製品サービスの視点は、製品サービスの品質、機能、デザイン等においてどのように差を出していくのかというものです。

 

第三に、事業のしくみの視点とは、製品サービスが生産されてから出荷され顧客に販売されるまでのプロセス(そのプロセスにおける企業間の協働関係も含む)においてどのように差を出していくのかという見方です。

後継者の企業行動と先代経営者の企業行動の違いとは?

次に、差別化戦略の観点から、事業承継の問題を考えていきます。事業承継では、後継者の企業行動が先代経営者の企業行動とどのような違いを出すのかが大きな論点となるでしょう。

 

前回の連載で、先代経営者と後継者の事業ドメイン(企業活動の展開領域)の比較について話しました。後継者による差別化とは、後継者によって再定義された事業ドメインにおける具体的な企業行動を示します。

 

先述の差別化の三つの視点から考えると、後継者による差別化とは、市場におけるセグメント、製品サービス、並びにその生産販売プロセスにおける先代経営者の企業行動との違いといえるでしょう。この違いは、事業承継プロセスを通じた後継者による独自の企業行動の発露ということができるでしょう。

 

【図表】後継者による差別化(独自性)の三つのポイント

 

出所:筆者作成
出所:筆者作成

先代との「違い」を出すだけでは不十分

他方、事業承継の根幹である後継者によるイノベーションの観点から考えると、たんに先代経営者との違いを出すだけでは十分ではありません。競合企業との間での違いを出していかねばなりません。

 

例えば、競合他社が展開していない市場のセグメントへの展開(市場のセグメントの視点)、製品品質における優位性(製品サービスの視点)、出荷・物流における優位性(事業のしくみの視点)等です。後継者によるイノベーションとは、先代世代との違いを含め、競合企業との比較においても進取性や革新性が求められているといえるでしょう。

 

次回以降、事業承継における後継者による差別化(独自性)について、市場のセグメント、製品・サービス、事業のしくみの各論点について細かく考察していくことにしましょう。

 

 

<参考文献>
Porter, M. E. (1980). COPETITIVE STRATEGY. New York:  Macmillan Publishing. (土岐坤・中辻萬治・服部照夫訳『競争の戦略』ダイヤモンド社, 1982).

落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

【2017年度 ファミリービジネス学会賞受賞】 【2017年度 実践経営学会・名東賞受賞】 日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継が…

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