今回は、単なる経理ミスでも税務署は「不正取引」と判断するのか、という問題を取り上げます。※本連載は、元国税調査官の税理士で、顧問業務のほか税務調査対策等のコンサルティングを行う松嶋洋氏の著書、『<押せば意外に>税務署なんて怖くない』(かんき出版)より一部を抜粋し、具体的な税務調査対策を紹介します。

税務署は「不正の意図は関係ない」とのスタンスだが…

税務署は不正取引を発見しようと日夜努力していますが、不正取引の意義を突き詰めていくと、その定義はかなり難しいです。

 

不正というくらいですから、意図的に申告をごまかす、という、「不正をしようとする意図」が必要なように思われるかもしれません。しかしながら、税務署のスタンスとしては、このような意図はとくに必要がないとしています。

 

代表例は、「売上の脱ろう」と呼ばれるものです。これは、ある年に売上として計上すべきものを計上せず、翌年においても計上がなされなかったような場合を言います。

 

翌年においても計上できないのであれば、今後永久に計上される見込みがない、とも考えられますので、申告すべき売上を抜いた不正行為として、不正取引に該当するとしています。

 

とはいえ、単なる経理のミスで売上の脱ろうが起こることもあるでしょう。私見ですが、単なるミスにもかかわらず、不正取引に該当するというのでは、厳しいを通り越してひど過ぎると思います。

不正になるか否かは、税務職員であっても判断に迷う

この点について、調査官時代に先輩職員と意見交換したことがありますが、「売上は会社でもっとも重要な数値であって、ミスは基本的に許されないから、脱ろうは不正になるとしていると思う」と説明していました。

 

やはりこれも、調査官時代に聞いた10年以上前の話ですが、悪名高き(?)大阪国税局は「在庫の計上もれ」に対しても、不正取引に該当するとして、処理をしていた模様です。在庫の計上もれとは、ミスにより申告すべき在庫を少なく申告したことをいいます。

 

現在、意図的に在庫を計上しない行為(在庫除外)と在庫の計上もれは異なる取扱いをしており、後者は不正でないとされていますが、大阪国税局は意図的ではない計上もれについても不正取引と判断していたとのことで、かなり驚かされました。

 

税法上、重加算税の対象になる不正取引は、「事実の隠ぺいまたは仮装」と定義されています。ミスであっても、申告すべき在庫を「隠ぺい」していたことに変わりはないというのが、大阪国税局の見解だったようです。

 

しかしながら、在庫の計算は非常に手間がかかりますので、ミスが起こりやすい項目であることも事実です。

 

私が所属していた東京国税局など他の国税局は在庫の計上もれについて、不正取引に当たらないとして寛容に処理していたこともあって、大阪国税局も見解を改めたという経緯があるようです。実際のところ、不正になるかならないかは、税務職員であっても判断に迷うところです。

 

皆さんにご注目いただきたいのは、「事実の隠ぺいまたは仮装」という言葉の日常的な意味です。隠ぺいにしても仮装にしても、当然のことながら意図的に行うものでしょう。

 

先に述べた在庫の除外と計上もれの区分にしても、税務署としては不正の意図を重視しているわけですから、不正の意図は関係ないと説明する税務署のスタンスには、疑問があります。

 

<POINT>

不正取引に意図は必要ないとしているが、大いに難問がある

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