今回は、賃料滞納の額や期間を確認する際のポイントを見ていきます。※本連載は、弁護士法人サン総合法律事務所代表・パートナーの清水俊順弁護士、パートナーの高村至弁護士による編書、『借地借家事件処理マニュアル』(新日本法規)より一部を抜粋し、賃貸借契約の解除・解約の進め方を、事例を交えて分かりやすく説明します。

家賃台帳や賃借人に渡した領収書の写しなどが資料に

(1)滞納状況に関する資料を収集する

 

賃料滞納を理由とする解除をすることができるかを判断するためには、まず、滞納額、滞納期間を確認する必要があります。滞納額や滞納期間を確認するためには、家賃台帳や家賃振込口座、賃借人に渡した領収書の写し等の賃料授受に関する資料を集めることが必要です。

 

(2)賃料債権が時効により消滅していないか確認する

 

賃料滞納を理由に賃貸借契約を解除し、明渡請求訴訟を提起する場合、滞納賃料の請求も明渡請求と共に行うのが一般的ですが、滞納賃料の請求を行う場合には、賃料債権が時効により消滅していないかを確認する必要があります。消滅時効とは、一定期間権利の行使がされない場合に、その権利を消滅させる制度です。

 

消滅時効の起算点は、権利を行使できる時とされています(民166①)。賃貸借においては、支払時期の到来した時が消滅時効の起算点となります。

 

賃貸借において、賃料の支払時期は月単位、年単位というように設定されているので、賃料請求権の消滅時効の起算点は、支払時期ごとに計算されることになります(例えば、当月分前月末払いと支払時期が定められている場合には、10月分の賃料請求権の消滅時効の起算点は9月末日、11月分の賃料請求権の消滅時効の起算点は10月末日となります。)。

 

一般的に債権の消滅時効期間は10年とされていますが(民167①)、賃料請求権の消滅時効期間は短期消滅時効の5年となります(民169)。

 

賃料債権は、年単位、あるいは月単位に支払時期が定められていることが通常ですから、「年又はこれより短い時期によって定めた金銭」の定期給付債権に該当することになるからです。

 

なお、改正民法(案)では短期消滅時効の制度が見直され、民法169条は削除されることになりました。民法改正後は、賃料債権を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき、又は、賃料債権を行使することができる時(客観的起算点)から10年間行使しないときは、賃料債権は時効により消滅することになります(改正民(案)166①)。

債権の消滅時効期間は、原則として5年に短縮される

<アドバイス>

 

〇短期消滅時効制度の廃止と時効期間

改正民法(案)では、職業別の短期消滅時効制度は廃止されます。その区別に合理性がないためです。あわせて、債権の消滅時効期間については、改正民法(案)166条1項の定めに一本化されます。また、商法522条が定める5年の商事消滅時効についても廃止されます。

 

債権の消滅時効期間と起算点について、改正民法(案)166条1項は次のように定めています。

 

〇改正民法(案)

(債権等の消滅時効)

第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

 

一債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。

二権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

 

2・3〔省略〕

 

このように、改正民法(案)では、債権の消滅時効期間は、主観的起算点から5年、客観的起算点から10年という二元的な制度に変わります。

 

注意しなければならないのは、賃料債権の場合、通常、主観的起算点と客観的起算点は一致する、と考えられることです。これまで債権(商事債権を除きます。)の消滅時効期間は短期消滅時効の定めがあるものを除いて10年でしたが、これからは原則として5年に短縮されると考えた方がよいでしょう。

 

なお、賃料債権については、消滅時効期間が5年という意味では変わりはありません。

借地借家事件処理マニュアル

借地借家事件処理マニュアル

清水 俊順,高村 至

新日本法規

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