前回に引き続き、「賃貸借契約」で確認すべきポイントを見ていきましょう。※本連載は、弁護士法人サン総合法律事務所代表・パートナーの清水俊順弁護士、パートナーの高村至弁護士による編書、『借地借家事件処理マニュアル』(新日本法規)より一部を抜粋し、賃貸借契約の解除・解約の進め方を、事例を交えて分かりやすく説明します。

賃貸借契約における「契約解除条項」の内容を確認

前回に引き続き、「賃貸借契約」で確認すべきポイントを見ていきます。

 

(3)契約解除条項を確認する

 

◆賃貸借契約における催告解除

前述したように、賃貸借契約における賃料の滞納は賃料支払義務の債務不履行となり、契約解除の原因となります。判例・学説は、継続的契約である賃貸借契約における解除についても民法541条が適用されると考えています。

 

したがって、賃料の滞納がある場合には、賃貸人は相当期間を定めて催告し、相当期間内に賃料の支払がないときに、賃貸借契約の解除をすることができます。催告をした後、相当期間経過前に賃料が支払われた場合には、賃貸借契約を解除することはできません。

 

また、賃貸借契約の解除は、将来に向かってのみその効力が生じ、遡及効はありません(民620)。

 

◆賃貸借契約書の解除条項

賃貸借契約書には、「3か月以上賃料を滞納した場合に契約を解除することができる」というように解除条項が記載されていることが一般的です。実際に生じている賃料の滞納期間と賃貸借契約書に記載されている解除条項を確認した上で、具体的案件において賃貸借契約が解除できるかを判断します。

 

賃貸借契約書に解除条項がなかったとしても、賃料支払は賃借人にとっての中心的な義務になりますので(民601)、賃料の滞納が賃貸人と賃借人間の信頼関係を破壊する程度に至っているのか、その他信頼関係を破壊する事情がないかを総合考慮した上で、契約の解除ができるかを判断することになります。

 

なお、後掲(4)で述べる無催告解除特約がある場合を除いて、前述したように賃貸借契約においては民法541条が適用されますので、相当期間を定めて催告をした上で賃貸借契約の解除をするのが原則です。

 

◆賃貸借契約に係る解除権の制限

賃料の滞納は、賃貸借契約の債務不履行となり契約解除の原因となり得ますが、継続的契約である賃貸借の場合には、賃貸人及び賃借人間の特別な信頼関係を考慮し、判例・学説は、債務不履行の事実があったとしても、信頼関係を破壊する程度に至らない場合には契約の解除を認めていません(信頼関係破壊の法理)(最判昭39・7・28判時382・23)。

 

賃貸借契約書の解除条項で定められている滞納期間を超える滞納が発生した場合には、一般的に信頼関係が破壊されていると考えられますが、解除条項で定められている滞納期間を超える滞納が発生していたとしても、信頼関係を破壊していないと認められる事情があれば、賃貸借契約の解除をすることはできません。

 

賃料滞納の状況、期間、賃借人の態度、賃料滞納に至った経緯等を確認した上で、解除をすることができるか個別具体的に検討することになるでしょう。

賃料の代位弁済を受けた場合、契約解除は可能か?

<ケーススタディ>

 

Q:賃貸借契約締結の際に、賃借人が保証会社と保証委託契約を締結していたところ、賃借人に滞納があったため、保証会社から賃料の代位弁済を受けました。この場合、滞納賃料は回収できているため、契約の解除はできなくなるのでしょうか。

 

A:大阪高裁平成25年11月22日判決(判時2234・40)は、賃借人による賃料滞納が常態化し、賃借人が保証委託契約を締結した保証会社から、賃貸人が賃料の代位弁済を受けた事例において、

 

「賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって、賃借人による賃料の支払ではないから、賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり、保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当でない」

 

「保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって、これにより、賃借人の賃料の不払という事実に消長を来すものではなく、ひいてはこれによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではない」

 

として、滞納賃料が一部解消されたことを理由に賃貸借契約の解除原因事実を争った賃借人の主張を排斥しました(賃借人が上告及び上告受理申立てをしましたがいずれも排斥)。

 

保証会社の代位弁済により形式的には賃料滞納は解消されることにはなりますが、賃借人が賃料の支払をしていないという事実は残るため、この点を考慮した上で信頼関係が破壊されたと判断したものと考えられます。

 

この話は次回に続きます。

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