今回は、「円高」とはどのような仕組みか、円高によって起こる身近な現象を例に解説します。※本連載は、大阪府の有名高校の教諭を歴任し、現在は大阪府立天王寺高等学校の非常勤講師を務める南英世氏の著書、『意味がわかる経済学』(ベレ出版刊行)の中から一部を抜粋し、経済学の基礎知識をわかりやすく説明します。

円高になると海外旅行は安くなり、輸出は減少

円高・円安の影響を考える場合、両方を一度に覚えようとすると混乱します。こういう場合は円高または円安の一方だけをきちんと覚えることをお勧めします。ここでは、円高の影響について考えてみます。

 

①海外旅行は安くなる

円高になると円の価値が高くなります。したがって、海外旅行は安くなります。1ドル = 360円であった頃、ヨーロッパ旅行は1人100万円もしました。だから,海外旅行なんて高嶺の花でした。でも、いまは1ドル = 約100円ですから、1人 30万円もあれば海外旅行を楽しむことができます。

 

②輸出は減少する

一方、円高になると輸出しにくくなり、減少します。そのメカニズムは次のとおりです。いま、日本で1台200万円の車をアメリカに輸出するとします。もし、為替レートが1ドル = 200円なら、アメリカでの販売価格は1万ドルになります。もし、円高になり1ドル = 100円になった場合、日本の自動車メーカーが受け取るお金は100円 × 1万ドル=100万円になってしまいます。そこで200万円を手に入れようと思ったら、アメリカでの販売価格を2万ドルに値上げせざるを得ません。昨日まで1万ドルで売られていたものが、為替レートが変わったために、今日から2万ドルになるのです。その結果、アメリカでの販売は落ち込み、輸出は減少します(図表)。

 

[図表]円高による輸出産業への打撃

トヨタは1円の円高で営業利益が400億円減る!?

上の例では少し極端に説明しましたが、たとえばトヨタ自動車は1円の円高で1年間に営業利益が400億円減るといわれます。

 

一般に、円高によって輸出が落ち込み、日本が不景気になることを円高不況といいます。もちろん、円安になればその反対のことが起きます。

 

ただし、国内が不況だからといって意図的に為替レートを切り下げて輸出を増加させる政策は、一般的にはご法度とされています。理由は相手国の報復を招き、為替切り下げ競争につながるからです。これは世界恐慌に際して人類が学んだ英知です。

本連載は、2017年5月25日刊行の書籍『意味がわかる経済学』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

意味がわかる経済学

意味がわかる経済学

南 英世

ベレ出版

経済学の理論や数字を聞いても、それが何を意味するのか、そもそも何のための理論なのかがよくわからないという経験はありませんか? 本書は理論や数字の意味をしっかり理解できるよう、実際の経済状況や経済政策と結びつけ…

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