今回は、ソ連の自滅から検証する「社会主義崩壊」の理由を見ていきます。※本連載は、大阪府の有名高校の教諭を歴任し、現在は大阪府立天王寺高等学校の非常勤講師を務める南英世氏の著書、『意味がわかる経済学』(ベレ出版刊行)の中から一部を抜粋し、経済学の基礎知識をわかりやすく説明します。

「革命」以外に社会主義国家を実現する方法とは?

社会主義国家を実現する方法は、一つだけではありません。革命以外にもう一つ方法があります。それは選挙に勝って共産党政権を樹立し、法律を改正して共産主義化を推し進めるという方法です(図表)。そうすれば、革命という血なまぐさいことをしなくても、社会主義国家を実現できます。現在、各国に存在するほとんどの左翼政党は、こうした穏健な方法で社会主義国家の樹立を目指しています。

 

[図表]資本主義から社会主義への二つの移行方法

貧富の差も、恐慌、失業、インフレもないはずが…

貧富の差がなく、恐慌も失業もインフレもなく、しかも社会福祉が充実していて公共料金が安い。社会主義はそうした理想社会の樹立を目指したはずでした。ところが、実際にはうまくいきませんでした。ソ連は1991年に自滅してしまいます。当時、モスクワにある「万国の労働者よ、団結せよ」と記された板に、「共産主義に反対して」と市民が加筆したというエピソードが伝えられています。なぜ、ソ連はなぜ崩壊したのでしょうか。

 

(原因1)インセンティブの欠如

政府が生産計画を作る中央集権型の経済システムは、巨大な官僚制を生み出し、著しい非効率と技術革新の停滞を引き起こしました。マルクスは、たとえ私的利潤の追求を禁止しても、人間の労働意欲は変わらないだろうと考えました。しかし、実際には労働者の勤労意欲は低下してしまいました。平等な社会を実現したのはいいのですが、一生懸命働いても働かなくても給料が変わらないわけですから、適当に働くフリをするだけの人間が出てきても不思議ではありません。結局、労働者のインセンティブの欠如が経済成長率の低下を招き、それが社会主義崩壊の一因となっていったのです。

 

(原因2)政治的自由の抑圧

自由の本質は国家権力に反対できることです。権力を批判する自由があって初めてその国は自由な国だといえます。権力に迎合する自由はいつの時代にもあります。共産党による一党独裁体制をとるソ連では、国家権力に反対する自由はありませんでした。スターリンは自分に反対した者約600万人(2000万人という説もある)を殺したといわれます。1980年代にモスクワでささやかれたアネクドート(小話)を一つ紹介します。

 

アメリカ人とソ連人が互いに自分の国を自慢し合っていた。

アメリカ人:「アメリカは自由な国だ。たとえ私がレーガンのバカヤローといっても誰も私を逮捕しない」

ソ連人:「ソ連だって自由な国だ。たとえ私がレーガンのバカヤローといっても誰も私を逮捕しない」(?)

本連載は、2017年5月25日刊行の書籍『意味がわかる経済学』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

意味がわかる経済学

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南 英世

ベレ出版

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