赤字会社の事業を少しでも「高値で売る」方策とは?

前回は、赤字会社の事業譲渡における「事業の評価方法」について解説しました。今回は、赤字会社の事業を「高値で売る」ためのポイントについて見ていきます。

何より大切なのは事業価値が劣化する前の「早期決断」

事業譲渡を検討する際、少しでも高く売りたいと考えるのは当然のことですが、売り手に、事業を高く売るための方策はあるのでしょうか。


率直にいって、想定をはるかに超えた金額で売り抜けるような、そんな好都合な話はなかなかありません。しかし、高値で売る方法はあります。何よりも大切なのは、赤字会社の中でも売れる見込みのある事業が見つかった場合には、事業価値が劣化する前に、早期に譲渡することです。他の赤字部門に引っ張られる形で従業員が労働意欲を低下させ、設備投資が滞って老朽化していくようでは、せっかくのGOOD部門も色あせてしまいます。


人間は迷う生き物です。特に、会社の命運を決するような重大な決断は迷いに迷います。早期に決断するには、「決断してから専門家に相談する」のではなく、「相談してから決断する」とよいと思います。

 

事業譲渡+特別清算+経営者保証ガイドラインという複雑な手続の全貌をつかみ、かつ詳細まで知って決断することは正直とても難しいです。決断せよといわれても、考えるための手続についての知識も経験もありません。まず、「専門家に相談して、それから事業譲渡なりを考えよう」、そういう勢いも、ときとして必要です。

事業部門ごとの収支は明確になっているか?

また、評価の大きなポイントとして挙げられるのが、事業部門ごとの決算ができているかどうか、ということです。


事業譲渡の際の評価額は、事業部門ごとに算出します。事業部門で負債を引き継ぐことはありませんから、資産と収益で評価を算出するわけですが、このとき部門ごとの決算ができていないと、結局は、譲渡される資産だけで値段が決められてしまいます。どれほど利益が上がっているといっても、単独の収支が出ていなければ、買い手には納得してもらえず、利益は考慮されないまま、工場の土地、建屋、機械設備などの資産だけの値段で売ることになってしまいます。


たとえ熟練工が10人いても、どれほど技術やノウハウがあっても、値段はつきません。しかも、不動産などはほとんど減価償却が終わっているため、簿価は非常に安くなっているはずです。


ところが、事業部門ごとに収支が出ていれば、有利な条件で譲渡が可能となります。なぜならGOOD部門だけの資産と利益が出ていれば、その事業部門の資産プラス利益という評価が算出されることになるからです。


たとえば資産2000万円、年間500万円の収益が上がる事業部門の場合、資産しか認められなければ2000万円のみの価値ですが、事業部ごとの利益が認められれば、500万円×3年分で1500万円の価値が上乗せされ、3500万円の価格がつくわけです。


このように、事業部門ごとの収支を明らかにしておくことが、有利な事業譲渡のためにとても大事なのですが、事業譲渡を決めてから慌てて部門ごとの収支表が作れるはずもありません。もし、これから会社の廃業や事業承継を考えているとしたら、少なくとも3年前にはこうした書類を準備しておく必要があります。

定款や就業規則など基本的な書類はきっちり揃えておく

事業譲渡をするまでに整えておきたい書類は、他にもあります。会社の定款、就業規則、帳簿、決算書、確定申告書類、各種許認可書といった会社の基本的書類です。前にも述べたように、こうした基本的な書類が意外に揃っていない会社が多いものです。これらはきちんと整理して保管し、すぐに取り出せるようにしておいてください。


同時に会社のホームページもきちんと整えておく必要があります。昔は会社案内のパンフレットが一般的でしたが、今はホームページが重要な判断材料とされています。BtoBのメーカーなどはホームページを作成していないところもあるのですが、自社の商品やサービスのメニューを開示するとともに、社歴や取引先などを宣伝する意味でも欠かせないツールのひとつです。きちんとしたホームページがあって、常に最新情報が更新されていれば、会社全体のイメージアップにも大きく貢献します。


さらに会社の印象を上げるには、工場や事業所、店舗などの整理整頓や清掃もしっかり行いましょう。これは、第三者がデューデリジェンス(買収監査)に訪れた際に、よい印象を持ってもらうためです。経営者や従業員の印象が、直接的に譲渡価格に反映されることはないかもしれませんが、それでも会社全体が礼儀正しく好感が持てる雰囲気になっていれば、買い手がつきやすくなるでしょう。

 

事業譲渡をすることが決まったら、このようにして経営者は私たち専門家と相談しながら譲渡金額の目安を決めていきます。赤字会社の整理の場合には、事業譲渡をした後で残された会社とBAD部門の特別清算をしなくてはならないので、債務の弁済計画も考慮して妥当な譲渡金額の目安を決める必要があります。この段階ではまだ買い手は登場していませんが、自分なりの覚悟を決めておくことが大切です。

本連載は、2015年8月26日刊行の書籍『赤字会社を驚くほど高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載赤字会社を驚くほど高値で売る方法

弁護士法人しょうぶ法律事務所 代表社員

1964年、愛知県に生まれる。名古屋大学法学部卒業。卒業後に最高裁判所司法研修所司法修習生となる。1992年弁護士登録(愛知県弁護士会)。1996年しょうぶ法律事務所を開設。2008年静岡大学法科大学院教授就任(担当 商法・会社法)。2012年愛知県弁護士会副会長就任。 2013年10月にしょうぶ法律事務所を法人化する。
大手企業・中小企業を顧問先とし、倒産案件の申立代理人および破産管財人・監督委員をそれぞれ100件以上務める。複数の弁護士によるチーム体制で最高品質のリーガル・サービスの提供を目指す。 2015年4月には一般社団法人中部事業承継紹介センターを設立。事業承継の出会いの場を士業ならではの視点から提供している。

著者紹介

赤字会社を驚くほど高値で 売る方法

赤字会社を驚くほど高値で 売る方法

山田 尚武

幻冬舎メディアコンサルティング

アベノミクスにより日本経済は回復基調にあるといわれるものの、中小企業の経営環境は厳しさを増しています。2013年度の国税庁調査によると、日本の法人約259万社のうち約7割にあたる176万社が赤字法人となっている一方で、経…

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