本連載は、静岡県立高校教諭で、日本地図学会所属の伊藤智章氏の著書、『地図化すると世の中が見えてくる』(ベレ出版)の中から一部を抜粋し、情報の「地図化」の有用性や具体的な事例をご紹介します。

「地図」は文字より古い情報伝達の手段

情報をわかりやすく伝える手段として「地図」があります。今から約2万年前の旧石器時代の洞窟で見つかった壁画(図表1)は、獲物が取れる場所を共有した「地図」であるとの説もあります。

 

[図表1]フランス・ラスコーの洞窟壁画(約2万年前)

〈Wikipedia より〉
〈Wikipedia より〉

地図は文字よりもはるかに古いコミュニケーション手段と言えます。「地図」の本質は、使う人と使う目的がはっきりしていることにあります。飾って眺めたり、実際にない風景や事象を描き込めば、それは地図ではなくて絵画です。地図は余計なものを描き足さず、むしろ必要な情報のみを取り出して他は思い切って省くことに主眼が置かれてきました。

優れた地図は「分かりやすくシンプル」

図表2は、南太平洋のミクロネシアのマーシャル諸島で古代から20世紀初頭まで使われていた「スティックチャート」(海図)です。椰子の枝を組み合わせ、穴のあいた石や小枝を使って島や航路を示しています。

 

[図表2]マーシャル諸島の「スティックチャート」

船乗りの信頼を得て古代から20世紀初頭まで海図として使われていたという〈海上保安庁「海図アーカイブ」より〉
船乗りの信頼を得て古代から20世紀初頭まで海図として使われていたという〈海上保安庁「海図アーカイブ」より〉

 

図表3は、世界史の教科書でもおなじみの、世界最古の粘土板の世界図です。紀元前700年頃のものと言われています。支配者が民衆ないしは戦争で新たに征服した地域の人々に対して自らの地位を示すことが目的なのか、言葉が通じない他民族にもわかるように、海と川、大陸、そして世界の中心がシンプルに描かれています。

 

情報があふれ返る現代社会では、地図化されることなく消えてゆく情報がたくさんあります。また、せっかく情報を地図化しても、あれもこれもと詰め込みすぎて、かえって見づらくなっている地図もたくさんあります。

 

地図化されていない情報を地図化して理解すること、情報が詰まりすぎた地図をわかりやすくシンプルに描き直すことが本書のテーマです。地図の原点に立ち戻って、「地図化する」ことの面白さを実感していただければと思います。

 

[図表3]古バビロニア帝国の「粘土板世界図」 

世界の中心に首都、南北に貫流する二本の川(ティグリス川、ユーフラテス川?)外側を取り巻く二重の円が地中海、その先は野蛮人の世界〈Wikipediaより〉
世界の中心に首都、南北に貫流する二本の川(ティグリス川、ユーフラテス川?)外側を取り巻く二重の円が地中海、その先は野蛮人の世界〈Wikipediaより〉

 

 

 

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    本連載は、2016年9月25日刊行の書籍『地図化すると世の中が見えてくる』から抜粋したものです。その後の統計情報等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    地図化すると世の中が見えてくる

    地図化すると世の中が見えてくる

    伊藤 智章

    ベレ出版

    世の中には様々な情報が溢れていますが、これらを地図上に落とし込んでみると、いろんなことが「目に見えて」わかるようになるのではないかと試みました。 本書では自然環境・産業・資源・エネルギー・生活と文化・人口の様々…

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