会社を継続しながら再起する「民事再生」活用時の留意点とは?

会社を継続しながら再起できる「民事再生」ですが、利用にあたっては留意点も多くあります。今回は、それらについて見てきます。

債権の減免依頼等より取引関係を失う場合も

民事再生にあたっては、債権者に大幅な債務カットをお願いする以上、いくつかの留意点があります。


最大の問題は、再生手続開始の申立てをすると事業価値が毀損されてしまうことです。民事再生の場合、取引先について、商取引債権であるからといって特別の優遇はありませんので、金融機関の債権と同様に、再生計画によって大きな債権の減免や支払期限の猶予があります。場合によっては、連鎖倒産という深刻な影響をおよぼしかねません。このため、取引先から信用を失い、取引に影響する場合もあります。

 

具体的には、建設業などの行政上の許認可に影響をおよぼす場合が、深刻な問題となります。これらの点を考慮すると、私的整理の方が優れているといえます。また、いわゆるBtoBビジネスにおいては、民事再生を利用したことをきっかけに、取引先から取引を停止する旨の通告を受けることもあります。取引口座を失っては民事再生できません。

 

筆者も、上場会社との取引がある株式会社の民事再生の案件において、当該上場会社が取引を継続してくれるかどうか、気を揉んだこともありました。そのときは、会社の技術力が評価されたのか、経営者の信頼があったのか、幸いにも、再生手続開始の申立てをした後も、取引は継続されました。他方で、飲食業・ホテル旅館業やゴルフ場のように、一般の個人を対象とする事業の場合、個人は、快適なサービスを適切な値段で利用することができればよいということで、民事再生をしたとしても顧客は離れず、事業価値は毀損されにくいといわれています。

黒字になる見込みがなければ活用は難しい民事再生

次に、裁判所による監督があります。前述のように民事再生は、通常清算ないし特別清算と同様、現経営者が手続開始の決定後も引き続き会社の財産の管理処分権を有します。しかし、自由な裁量が認められているわけではなく、裁判所に選任された監督委員の監督のもとに行われることになっています。監督委員の同意がなければ、一定の行為(財産の処分、財産の譲受け、借財、訴えの提起など)を行うことができず、経営者が独自判断で会社を動かすことはできません。


さらに、税金、社会保険料および従業員への未払給与などは共益債権とされ、再生計画に含まれないため優先的に弁済していかなければなりません。加えて、不動産などに金融機関などの債権者によって抵当権(別除権)が設定されている場合にも、抵当権(別除権)の行使は認められているので、債権者との話し合いがつかなければ担保を行使されてしまいます。これによって会社の工場などの中核的な不動産を失えば、再生計画案の立案すらできません。


また、再生手続開始の申立てのためには、裁判所に予納金を支払わなければなりません。予納金の額は負債総額によって異なりますが、たとえば東京地方裁判所の例では負債総額が1億円の場合500万円が目安となります。

 

このように考えると、民事再生は確かに中小企業の会社再建には適した方法ですが、デメリットが多いケースもあります。まず、民事再生は会社の清算ではなく、事業の再生を促すための手続きですから、どんなに債務を減免しても事業収支が赤字で改善の見込みがない会社には適していません。事業自体の収益力が弱く、黒字になる見込みがつかなければ、再生計画は机上の空論になってしまうからです。


次に、経営者や従業員が意欲的に民事再生に臨んでいるかということも重要なファクターです。債務を減額してもらったとしても、残った債務を分割して支払いながら事業を続けていくためには、役員報酬はもちろん従業員の給与カットなど、厳しい条件をクリアしなくてはなりません。そうした条件のもとで、どれだけ経営者と従業員が一丸となって難局を乗り切っていけるか、経営者と従業員の意欲にかかっているともいえます。


最後に、会社の経理や経営状態がずさんな会社は利用できません。事業譲渡の際にも触れましたが、会社の経理処理に不適切な部分があり、帳簿もきちんと整っていないような会社では、再生計画案が認められるはずもありません。いくつもの消費者金融から借入れを行っているような会社も、債権者からの信頼を得ることは難しいでしょう。

民事再生より特別清算等の活用をすすめる理由とは?

さて、ここまでは、中小企業が会社を継続しながら再生させていくための一般的な手続きである民事再生について説明してきました。再生計画案が債権者集会で可決され、裁判所の認可を受けて進める民事再生は、財務悪化に苦しむ赤字会社には大きな恩恵をもたらし、会社再建に向けた有効な手段となります。


ただし、すでにGOOD部門である黒字事業を譲渡して、「箱=会社」とBAD部門だけが残っているケースでは、債務が減免されても残されたBAD部門だけでは事業の黒字化は難しく、会社再生の道は険しいものとなるでしょう。また、税金、社会保険料および従業員への未払給与・退職金は旧債ですから減免を受けることはできません。


そこで筆者は、負債を弁済しながらの民事再生ではなく、特別清算によっていったん会社をきれいに終わらせた後で、心機一転新たに会社を興すことをおすすめします。つまり、高齢で事業を終わらせたい人はもちろんのこと、若い経営者で、今は壁に突き当たってしまったけれど、再度奮起して新たな事業にトライしていきたいと思う方でも、事業譲渡+特別清算+経営者保証ガイドラインという方法によって打開していくことがベストなのです。

本連載は、2015年8月26日刊行の書籍『赤字会社を驚くほど高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載赤字会社を驚くほど高値で売る方法

弁護士法人しょうぶ法律事務所 代表社員

1964年、愛知県に生まれる。名古屋大学法学部卒業。卒業後に最高裁判所司法研修所司法修習生となる。1992年弁護士登録(愛知県弁護士会)。1996年しょうぶ法律事務所を開設。2008年静岡大学法科大学院教授就任(担当 商法・会社法)。2012年愛知県弁護士会副会長就任。 2013年10月にしょうぶ法律事務所を法人化する。
大手企業・中小企業を顧問先とし、倒産案件の申立代理人および破産管財人・監督委員をそれぞれ100件以上務める。複数の弁護士によるチーム体制で最高品質のリーガル・サービスの提供を目指す。 2015年4月には一般社団法人中部事業承継紹介センターを設立。事業承継の出会いの場を士業ならではの視点から提供している。

著者紹介

赤字会社を驚くほど高値で 売る方法

赤字会社を驚くほど高値で 売る方法

山田 尚武

幻冬舎メディアコンサルティング

アベノミクスにより日本経済は回復基調にあるといわれるものの、中小企業の経営環境は厳しさを増しています。2013年度の国税庁調査によると、日本の法人約259万社のうち約7割にあたる176万社が赤字法人となっている一方で、経…

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